「従来の再生治療は細胞を体の外に出して培養、加工して再び体内に戻すため設備や薬剤、人材などに費用と時間がかかります。その点、シルクエラスチンを足場(移植の基盤)に使えば切除した半月板を砕き、再び欠損部に戻すだけ。そのような手術が1回で済む再生治療を目指し、研究を続けています」(安達教授)
研究は2つのアプローチから進められている。1つは縫合術での癒合率向上と、もう1つは部分切除における欠損部の再生だ。
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加齢やスポーツなどで半月板を損傷すると、将来的には変形性膝関節症に繋がる。半月板損傷治療の約8割は変形性膝関節症のリスクが高い部分切除術だ。そこで、前号で説明したように機能性タンパク質のシルクエラスチンを使った半月板再生の臨床研究が進行中だ。これは切除した半月板を利用する組織再生と縫合での癒合率を上げる研究で、来年からヒトへの医師主導治験が始まる。
歩行の際、クッションの役割を担う半月板は加齢やスポーツによる外傷などで損傷すると変形性膝関節症の大きな引き金になる。半月板はその大部分に血管がないため、損傷した場合、必要な細胞や栄養分も届かず、修復は困難となる。現在の治療は損傷部に血管があれば関節鏡を使い縫合術を行なう。しかし、血管が通ってなく、複雑に損傷したケースでは損傷個所を部分切除する。
引き続き、広島大学大学院医系科学研究科整形外科学の安達伸生教授に聞いた。
「難しいとされている半月板再生治療に希望を見出したのは、前号で紹介した機能性タンパク質のシルクエラスチンとの出会いがきっかけです。シルクエラスチンは細胞との親和性や細胞遊走力、維持力がある上に、温度や濃度によって粘度の高いゲル状やシート状、スポンジ状など使用箇所に応じて加工できるといった特性を有しています。これを半月板再生の足場(移植の基材)として利用すれば、複雑な損傷にも対応可能だと考え、研究を始めたのです」
半月板の再生研究では2つのアプローチを行なっている。1つは縫合術に対するもので、損傷した箇所にゲル状のシルクエラスチンを直接留置し、その後縫合して癒合率の向上を図る。また、従来は縫合術には適応しない血管が少ない箇所の損傷に対しても同様の治療を行なうことにより、適応範囲を広げる取り組みを実施している。