変形性膝関節症の原因は大腿骨と脛骨の間にある、軟骨のすり減りや半月板の損傷だ。軟骨は様々な治療法があり、最近では再生治療も始まっているが、半月板損傷治療は損傷部の縫合か部分切除だった。それが現在、変形性膝関節症予防を目的とした半月板の再生治療の研究が進行中だ。遺伝子組み換えの機能性タンパク質を利用するもので、来年には医師主導の治験がスタートする。
国内患者数、約2500万人と推計される変形性膝関節症は膝などの痛みで歩行が困難になる。原因は加齢による膝軟骨のすり減りや筋肉の減少、膝を動かす際の過重分散やクッションの役割を担う半月板の損傷などだ。重症の変形性膝関節症では年間10万件以上の人工関節置換術が実施されている。この人工関節によって痛みは軽減するが積極的な運動は難しい。
変形性膝関節症の予防としては軟骨の損傷に自家培養軟骨を使った再生治療が実施されるようになった。一方、半月板については再生治療がほとんど進んでいない。というのも、傷の修復には細胞や栄養が必要とされ、それらは血流によって運ばれるが、半月板は周辺の3分の1程度しか血管が通っておらず、再生が困難だからだ。そのせいで従来の治療は損傷部の部分切除か縫合となっている。
広島大学大学院医系科学研究科整形外科学の安達伸生教授に詳しく訊いた。
「半月板の損傷は10代と50~60代のふたつのピークがあります。半月板の損傷治療には部分切除術、または縫合術が行なわれます。しかし、癒合不全や半月板が小さくなるなどの問題があり、その結果、半月板の機能低下による変形性膝関節症の発症が問題でした。これを予防するために半月板の再生研究を始め、そこで出会ったのがシルクエラスチンです」
シルクエラスチンとは三洋化成工業が遺伝子組み換え技術を使い、医療材料として開発した機能性タンパク質のこと。天然由来タンパク質のエラスチンとシルクフィブロインの両方が合体した構造となっている。大腸菌から作る遺伝子組み換え医薬品はあるが、医療機器(材料)として製品化を目指すのは国内初だ。
シルクエラスチンはエラスチンの特性である細胞親和性(炎症を起こさず、組織になじむ)が高く、水分を構造内部に保持して膨張するので水に溶かし、しばらくすると粘度が増してゲル化する。また基礎研究により、シルクエラスチンには細胞遊走(細胞を患部に引っ張り込む)力と構造内に細胞を維持して修復する能力も有することが判明した。