神戸山口組から飛び出し、独立組織となった五代目山健組が、9月16日、六代目山口組に復帰した。山健組の名跡はそのまま存続し、拘留中の中田浩司組長は「幹部」という役職名のポストを与えられるという。裏切った神戸の中核組織が厚遇されて出戻る。正式決定が出るとあちこちの直参組織幹部から「通達が来た!」とうわずった声で電話がかかってきた。当事者さえ興奮するような、あり得ない珍事なのだ。
中田組長は2019年、ミニバイクに乗車し、単身で弘道会(六代目山口組中核組織)拠点を銃撃、組員に右腕切断の大怪我を負わせた容疑で逮捕されている。有罪なら10~15年程度の長期刑が科されるだろう。
「六代目の高山清司若頭は、『ヤクザは力』と考えている。捨て身で向かっていった人間を高く評価する」(六代目山口組と友好関係にある独立組織幹部)
暴力団は1%に満たない武闘派と、虎の威を借り一般人を脅す99%の狐で構成されている。虎を優遇せずに暴力団は存続できない。もちろん山健組の帰参は美談ではない。本質は山口組らしい政治的寝技でもある。内紛に乗じて一方を支援、代理戦争に持ち込んで勢力を拡大する。背景にあるのは親子である神戸山口組の井上邦雄組長と中田組長の確執だ。
元山健組の人間はこう説明する。
「高山若頭が府中刑務所を出所し、立て続けに暴力事件が起きても、神戸は反撃できなかった。井上組長は、かつて自分が率いてきた山健組を実行部隊にすると他の神戸山口組幹部に約束していたので、後継者の中田組長に『一刻も早く報復しろ』とプレッシャーをかけ続けていた」
重圧の中、中田組長は自らヒットマンとなって走った。殺しても殺されても、ヤクザとしての人生は終了だ。捨て身の突撃は命懸けの抗議に違いない。いじめの報復やパワハラの腹いせに、自殺で報復するのに似ている。今回の復帰も、井上組長へのさらなる報復と考えれば分かりやすい。自らの手下だった山健組に裏切られ、御輿の担ぎ手に逃げられたばかりか、憎き六代目に出戻られ、井上組長のメンツは丸つぶれだ。
六代目と神戸の勢力にはすでに圧倒的な差が付いている。六代目にすれば、今回の復帰劇は実質的な戦後処理だろう。司忍・六代目山口組組長への裏切りは決して許せないが、暴力団対策法による特定抗争指定を受け、本部や主要な事務所が使用禁止となり、定例会や組行事も満足に出来ない。六代目側も本音を言えばいち早く抗争を終え、日常に復帰したい。司組長は来年の1月に80歳となるし、高山若頭も後期高齢者目前だ。悠長に幕引きを待つ時間はない。神戸が組織を解散するなら、裏切った組長たちに命の保証を与えるなど相応の譲歩はするだろう。