日本で年間約10万人が亡くなる、死に至る病が「肺炎」だ。新型コロナウイルスの感染拡大で改めてそのリスクに注目が集まったが、肺炎は細菌やウイルスに限らず、様々な原因で引き起こされる疾病である。実は、毎年冬に何気なく使っている「羽毛布団」が原因で発症することも──。
なぜだか分からないが、季節の変わり目にタンの出ない「空咳」が止まらなくなり、発熱があり、息切れも感じるように……病院を受診してCTで撮影すると、肺の末端で酸素と二酸化炭素を交換する機能を持つ「肺胞」の壁が厚く硬くなってしまう「線維化」という状態が確認され、間質性肺炎という診断が──。
近年、こうした症状を訴えて病院にかかる人が受ける診断のなかに、鳥の羽やフン、羽毛布団やダウンジャケットなどの羽毛を使った製品が原因であるケースが出てきているという。
一般的に肺炎というと、新型コロナやインフルエンザなどのウイルスや、肺炎球菌などの細菌が肺で増殖して炎症を起こす「感染症」としての印象が強い。しかし、それとは別に鳥の羽などが原因となる「アレルギー性」の肺炎があるのだ。
札幌医科大学名誉教授で、即仁会北広島病院・札幌呼吸器医学研究所所長の高橋弘毅医師が解説する。
「鳥の羽やフンに含まれるタンパク質(抗原)を吸い込むことにより、肺でアレルギー反応が起きて発症・進行する『鳥関連過敏性肺炎』というタイプの肺炎があるのです。インコやブンチョウなど鳥そのものを飼っているのが原因となることもあれば、羽毛布団などを繰り返し、長期間にわたって使用していることで発症することもあります。
鳥関連過敏性肺炎は、症状の経過から『急性型』と『慢性型』に分けられ、急性型では鳥の羽などの抗原に触れて4~8時間後に空咳や発熱などの症状が出始め、抗原から離れると症状が軽快するということが繰り返されます。慢性型の場合、発熱は少ないが空咳が長く続き、息切れなどの症状を訴える人が多いです」
診断がとても難しい
この疾患は放っておくと命に関わることもある。
高橋医師が20年近く前に診た症例では、空咳と息切れで外来を受診した50代男性が、10年間にわたりリビングでインコを放し飼いにしており、慢性型の鳥関連過敏性肺炎と診断された。すぐにインコを手放すようアドバイスしたが、男性はその後、半年にわたって飼い続け、手放す決心をしたタイミングではすでに症状が酷く悪化していた。在宅酸素療法を始めたものの、数か月後に慢性呼吸不全で息を引き取ったという。
そうした重篤化が懸念される病であるにもかかわらず、診断は困難だという。肺の末端で酸素と二酸化炭素を交換する「肺胞」の壁が硬く線維化することで起きる間質性肺炎は、原因不明の場合、国の難病に指定される「特発性間質性肺炎」と診断されることもあるが、そのなかには真の原因が鳥の羽毛などであるにもかかわらず、特定に至っていないケースが含まれているとされる。