ホームセンターにスーパーマーケット、ラーメン店に回転寿司、大規模マンション……。東京郊外のありふれた風景を通り抜けると、いきなり小さな森が現れる。ダリアやケイトウなどがいまを盛りと自由に咲き乱れるその一角は、まるで童話に描かれるおとぎの国のようだ。
そんな異世界のあるじは小柄で笑顔とじょうろがよく似合う。1000坪という広大で美しい庭は、彼女が半生をかけて造り上げたもの。最愛の夫との別れのときも、自らの病で倒れたときも、色とりどりの草木たちは彼女を励ますように花を咲かせ続けた。
「もともとは、夫が庭で野菜を育てていて、その脇で私がちょこっとお花を植えていただけだったのが、こんなふうになってしまって──」
目の前いっぱいに広がる緑を前にそう語るのは、東京都小平市にある「森田オープンガーデン」のオーナー、森田光江さん(76才)。200種類を超える植物が生い茂る庭園を突き抜ける小道を歩いていくと、花や葉っぱが柵や鉢を思いっきりはみ出し、植物の生命力がダイレクトに伝わってくる。
「一度でいいから森田さんの庭を見てみたい」と足を運ぶ人は後をたたず、2007年には正式に見学者を受け入れるようになった。ご近所さんはもちろん、沖縄など遠方からうわさを聞きつけて上京する人もいる。
「ハイシーズンには、1日で20~30人ほどを迎えることもあります。個人の家ですし、もともとは近所の人たちに向けて開放して、お庭で一緒にお茶を飲んだり話したりするのが目的だったのですが、2007年に市の方から『小平市内のオープンガーデンとしてPRしたい』と相談され、『もちろん大丈夫です』と答えてから、いらっしゃるかたが一気に増えました。
いまの見所は秋の植物。こぼれていたコスモスの種が咲き始めて、ワレモコウ、オミナエシも増え始めています。決して華やかではないけれど、そこが秋バージョンのお庭の素敵なところでもあります」(森田さん)