東京・有明にオープンした有明四季劇場で、ミュージカル『ライオンキング』の公演が始まった。
本番を2週間後に控えた通し稽古の直前、総勢39人の出演者一人ひとりにエアタッチで挨拶して回る青山弥生。プライドランドの心の支えとなるヒヒの呪術師・ラフィキとその存在が重なる。こんな和やかな雰囲気からの静寂。そして青山が放つズールー語の歌い出しで、その場の雰囲気を一変させた。かと思いきや、コミカルな演技では、ストーリーを知っているはずのスタッフがこらえきれず笑い出す場面もあった。
青山は、このラフィキ役を1998年の日本初演から続けてきた。
「始めた頃は、声もパーンと出るし、脚もピーンと上がりました。でも、良くも悪くも“なんて簡単に声を出していたんだろう”って思います(苦笑)。いまは、衣裳は重く感じるし、以前ほど簡単に声が出ず、肉体的にはきつい。でも自分の体と向き合うことでまた新たな発見があると感じます」
初演当初、年老いたラフィキを表現するために、両手両足に各10kg、計40kgのおもりをつけて稽古をしていたというから驚きだ。
肝に銘じた「再演は俗悪になる」
23年の長きにわたって同じ役に向き合う原動力は、一体何なのか。
「どんな作品も、長くなるほどルーティンになる危険があります。観ているかたはもちろん、やっている方も面白くない。おいしい定食屋さんだって、変わらぬ味のよさはあっても、素材や季節によって毎日変えているはず。ですから私たちも、ただの繰り返しじゃなく毎回が“再生”でなければいけない。毎回、心の澱を出して、血を入れ替えるような気持ちで役に向き合っています」
その根底には、2018年に亡くなった劇団四季の創設者・浅利慶太さんの言葉が生きている。
「浅利先生はよく“再演すると俗悪になるぞ”とおっしゃっていました。昔の経験だけを頼りに演じると俗悪になる。でも、毎回、すべてを洗い直して真摯に向き合うことができたら、もっとよい舞台になるって。そういう数々の信念は、シンバの心に宿るムファサの言葉のように“肉”となって、私の中に生きています」