「ここ1〜2年の間にニート系YouTuberが増えてきた印象があります」──そう語るのは『改訂版YouTube成功の実践法則60』(ソーテック社、2018年)の著者としても知られるクリエイティブディレクターでテレビプロデューサーの木村博史氏だ。
ニート系YouTuberとは何か。明確な定義があるわけではないが、多くの場合、「ニート」または「無職」を自称し、自らの境遇について語ったり日々の生活をそのまま映したりした動画を投稿しているYouTuberを指す。悲惨なエピソードや自堕落な生活がウリのようだ。
とはいえ、一般的に言えば「何が面白いのかよくわからない」と感じる人は多いのではないか。YouTuberにはいろいろなジャンルがあるものの、例えばエンタメ系や教養系、アスリート系などであれば、興味はなくても人気の理由はうっすらと理解できる。しかしニート的な生活が“ウリ”と言われてもなかなか首肯しがたいはずだ。
ところが人気なのである。例えば無職の40代男性YouTuber・ケイジが今年2月に投稿したルーティン動画は、すでに10万回以上の再生回数を達成。ほかにも、同じく無職の40代男性YouTuber・くらげが約2年前に投稿した動画が再生回数8万回を超えるなど、トップYouTuberと比較すると規模は小さいかもしれないが、それでも多くの視聴者から注目されていることがわかる。
いったいなぜ、視聴者はニート系YouTuberの動画に興味を抱くのだろうか。また、ニート系YouTuberの強みとは何か。木村博史氏はその理由をこのように説明する。
「炎上系も含めてそうですけど、普通のYouTuberは必ずフェイクを入れていて、いわゆるリアリティショーとは対極にあるような動画を制作しています。一見するとふざけているようでも、しっかりと台本を作って流れを考えて作ることが多い。けれどもニート系の動画は朝から晩までずっと撮影していて、ダラダラ系というか、垂れ流しが基本です。
もちろん単にダラダラと垂れ流しているだけだと退屈です。けれどヒットしているニート系の動画を見てみると、今流行りの切り抜き動画のフォーマットにも似ていて、『朝食を食べる』『寝転ぶ』『昼食を食べる』『ゲームする』みたいな、いいところだけを切り抜いている。つまり編集によって生まれる垂れ流しの凝縮度がすごいんです。
同じニート系の動画でも、再生回数の多い動画と少ない動画があって、少ない動画はやっぱり映像的には面白くないんですよ。なぜ面白くないのだろうと考えてみたら、ハプニングがない。テレビ業界で言う“冗長化”の典型例で、同じシーンがグダグダと長く続くのはご法度なんです。一方で人気の動画はテンポが良い。ハプニングでアクセントをつけたり、場面をどんどん切り替えていったりするので、見ていて飽きないのです。構成上はとても優れた映像だと言えますね」