任期満了まで8か月を切った韓国・文在寅大統領の発言が、同国内で波紋を広げている。9月27日の金富謙首相らとの定例会合で、食文化として根付いてきた“犬肉食”を禁じる法制定について、「検討する時が来た」との見解を示したからだ。愛犬家からは歓迎の声が上がる一方、「民族の食文化を冒涜している」との批判もある。
韓国では古くから犬肉スープの「補身湯(ポシンタン)」や、スライスして茹でた犬肉の「スユク」といった料理が滋養食として珍重されてきた。街には専門店もあるが、その数は年々減少しているという。
「1981年にソウル五輪の開催が決まると、当局は犬肉食文化のない欧米諸国からの批判をかわすことに躍起になった。1988年のソウル五輪、2002年のサッカーW杯、2018年の平昌五輪など大きな国際イベントのたびに、犬肉料理店に営業禁止命令や自粛要請が出され、隅に追いやられていったのです」(韓国紙記者)
韓国人の「犬肉離れ」が急速に進んでいるという現実もある。昨年行なわれた、米国の動物保護団体と韓国の市場調査機関による合同調査では、アンケートに答えた韓国国民の約8割が「犬肉を食べたことがない」と回答している。
「犬肉を好んで食べるのは主に50代以上の男性です。その下の世代はペットとして犬を飼う人も多く、犬肉食に嫌悪感を抱く若者は少なくありません」(前出・記者)
そうした中、昨年発生した“ある事件”は多くの韓国人に衝撃を与えた。
「韓国の天然記念物に指定されている“珍島犬”の親子を『大切に育てる』と偽り知人から譲り受けた70代男性が、譲渡からわずか2時間あまりのうちに2匹とも殺して食べてしまったのです。男性は詐欺と動物保護法違反で在宅起訴され懲役6か月の実刑、事件に加担した食肉処理業者には執行猶予付きの有罪判決が言い渡されました」(同前)
韓国の現行法上、食肉用として育てた犬を処理し食べることに違法性はない。処理には電気ショックが用いられるのが一般的とされるが、劣悪な環境で飼育した犬を不法に処理する業者は後を絶たず、動物保護法違反や食品衛生法違反で摘発されるケースは少なくないという。
ここにきて、文氏が「犬肉食禁止」に言及したのはなぜか。韓国・漢陽女子大学准教授の平井敏晴氏が指摘する。
「任期満了を前に、若い世代の“文在寅離れ”が加速しています。特に、20~30代の支持率は急落しているので、クリーンなイメージを残したいという思いがあるのでは。韓国は今年7月、国連貿易開発会議(UNCTAD)に“先進国指定”されたこともあり、欧米諸国から『犬を食べる国』と批判されないよう、先手を打とうとしているとも考えられます」