10月1日、午前1時52分。
《かみのけピンク #かわいいと思ったらRT》
同日、午前2時3分。
《もう2時》
午前2時6分。
《ツイ消し #病み垢さんと繋がりたい》──
都内に住む20代のまいさん(仮名)のツイッターアカウントは、分刻みで更新を続ける。「RT(リツイート)」とは、投稿を拡散すること。「ツイ消し」とは、自分の投稿を削除すること。髪をピンク色に染めたまいさんは、自撮り写真をアップロードして「私のことをかわいいと思ったら拡散してください」とフォロワーに訴えたわずか11分後、「もう深夜だから誰も反応してくれない」と遠回しにアピールしたのち、その3分後に写真を削除した。検索されやすいよう、「私は病んで(落ち込んで)います」という意の一行を添えて──。
こんなふうにして、SNSでの他人からの評価を求めて、四六時中スマホに張りついている人が後を絶たない。
コロナ禍でSNS中毒が増加
スマホを所有している15~69才を対象に行った調査。緊急事態宣言前後のスマホ利用時間を調べたところ、もともと利用時間が短い人はさらに短くなり、利用時間が長い人はよりスマホを使う時間が延びている傾向にあった。
MMD研究所の調べによると、緊急事態宣言下でのスマホの利用時間は全体的に増加傾向にあり、最も増加率が高かったのは、なんと「7時間以上」の群。宣言前と比べて34%も増えており、その多くがSNSを利用している。
ツイッター、インスタグラム、フェイスブック……友人や知人とのやりとりから、有名人のアカウント閲覧、ネットニュースのリサーチまで、SNSはいまや日常に欠かせないツールだ。一方で、「SNSなしでは生きられない」という、依存症も多く生んでいる。
自分好みのアカウントだけをフォローし、スクロールするたびに興味のあるものだけが表示され続ける“温室”。検索履歴や閲覧履歴に基づいて、広告もその人の好みに合わせてパーソナライズ化され、常に購買意欲をあおる。半面、利用者同士の衝突や心身の健康被害といったトラブルも相次いでおり、その本当の怖さはまだあまり知られていない。
SNSにはどんな「罠」があり、そこからどう逃げればいいのか。SNSと一口に言っても、そのリスクにはさまざまなバリエーションがある。ネット・ゲーム依存予防回復支援団体代表で臨床心理士の森山沙耶さんが指摘する。
「実名登録が必要なフェイスブックが中高年のビジネスツールとして使われることが多い一方、ツイッターやインスタグラムの利用者は1人で複数の個人アカウントを持ち、常にタイムラインを閲覧し続けている印象です。やめ時がわからず、依存しやすいと思われます」
手のひらから世界とつながれるSNSを「世界一便利な道具」と思っている人は多いだろう。だが、スマホ依存防止学会代表の磯村毅さんは「多くの人はSNSを過大評価している」と言い切る。
「世界中の人間とSNSでつながったとしても、本当にそれを使って何かを成し遂げている人は一握り。むしろ、それ以外の多くの人にとって、SNSは無意識のうちにネガティブな影響を与えるツールです」(磯村さん・以下同)
SNSの真の恐怖について多くの専門家が強調するのは、「知らないうちに脳に悪影響を与える」という点だ。
「かつては“テレビばかり見てはいけない”といわれていましたが、スマホはテレビの4倍、脳を興奮させます。“ただ画面を見るだけ”という点では、スマホはテレビに近いように思えますが、本質はまったく異なる。
テレビに出ているのは自分とは関係のないタレントや著名人ですが、SNSでは友人や知人など、距離の近い人です。テレビよりもはるかに“自分ごと感”が高く、脳が興奮しやすい。スマホでSNSを1時間見るのは、テレビを4時間見るのと同じくらいの悪影響があります」