10月に入り緊急事態宣言が全面解除されたが、飲食店に対しては、酒類の提供は認められたものの、都道府県の定める一定の要件を満たしている店では夜9時まで、それ以外は夜8時までと、相変わらず時短要請が続いている。
しかし、日経新聞の記事「都内飲食店の5割超、時短応じず 協力金遅れで離反」(2021年7月25日付)によると、緊急事態宣言下の7月16日と19日に、新宿、渋谷、池袋、新橋、上野の各駅周辺で営業していた個人飲食店を100店舗ずつ調査したところ、全体の52%が午後8時以降も営業を続け、大半が酒類を提供していたという。
すでに営業自粛要請は形骸化しつつあったが、第5波における東京都の新規陽性者数は、8月13日の5773人をピークに減少に転じている。コロナの場合、感染から発症、検査陽性としてカウントされるまで1週間前後のタイムラグがあることを考慮すれば、自粛要請を無視する飲食店があるなかでも、8月初旬にはピークアウトしていたことになる。
そもそも「飲食店の営業自粛」には、本当にコロナの感染拡大を抑制する効果があると言えるのだろうか。
そんな疑問が起きるなか、一橋大経済学部の高久玲音准教授(医療経済学)は、今年8月7日、査読前の医学論文を公開するプレプリントサービス『medRxiv』(メドアーカイブ)に「SARS-CoV-2 Suppression and Early Closure of Bars and Restaurants : A Longitudinal Natural Experiment(新型コロナウイルスの抑制とバーやレストランの早期閉鎖:縦断的自然実験」と題した論文を発表した。
この研究では、全国2万1000人を対象に期間を空けて2回実施したアンケートの結果を比較して解析している。1回目の調査は、コロナ禍ではあるが緊急事態宣言の出ていなかった2020年8〜9月、2回目は首都圏や関西、中部で宣言が出ていた2021年2月に行われた。宣言の有無は、ほぼ飲食店への営業自粛要請の有無と言い換えられる。高久准教授は、この2期間(及び宣言の対象地域と非対象地域)で感染拡大に差があるかを比較することで、営業自粛の効果を測定したという。