スポーツ

落合博満が番記者に見せた素顔 「オレは決まったことには従うんだ」

「無口でマスコミ嫌い」という指揮官ではなかった(時事通信フォト)

「無口でマスコミ嫌い」という指揮官ではなかった(時事通信フォト)

 仏頂面で腕を組み無言のままベンチに座る──球史に数多いる監督の中でも毀誉褒貶が激しいのが、落合博満だ。そんな彼の素顔に肉薄したノンフィクション『嫌われた監督』(文藝春秋刊)がベストセラーになっている。著者の鈴木忠平氏が本誌に特別寄稿した。(全4回の第1回)

 * * *
 なぜ今、落合博満なのか? 最近、人からこう問われることがある。拙著『嫌われた監督』を含めて、今年は落合に関する書籍がすでに何冊か、刊行されているのだという。

 その問いに対して、私はいつも明確な答えができずにいる。だから自分の中にある、ひとつだけ確かなことを言うようにしている。

「いつか自分が死ぬまでに、落合という人物について書いてみよう、書かなければならないという使命感のようなものはずっとありました」

 質問に対しては、甚だ曖昧な返答である。「なぜ、今なのか」という問いに答えていない。

 だが、なぜか多くの人はそれで納得してくれる。ああ、その感覚なら、そういえば自分の心にもそれらしきものがあったような気がする、とでもいうように……。

 私は2004年から2011年まで、スポーツ新聞の担当記者として、落合が中日ドラゴンズの監督を務めた8年間を取材した。決して短くないその歳月の中で、私が最も影響された落合の言葉がある。

「おまえ、ひとりか?」

 この、たったひとつの問いである。

 あれは落合が監督になって3年目の春のことだったと記憶している。私はあることを訊くために東京・世田谷の落合邸に向かっていた。

 小田急線の駅を降りて、改札を出る。道幅の狭い商店街を抜け、住宅街を進んでいく道すがら、正直、何度も立ち止まり、引き返そうと思った。

 入社7年目、28歳。私は社内でも、取材の現場でも集団の序列の後方にいた。年長者や他の誰かに命じられた場所へ行き、言われたように記事を書いていた。輪の外側で傍観することに慣れきっていた。自分ひとりで何かできるなどとは想像もせず、いつもひとりになることを避けていた。そうすることで自分を守っていたのかもしれない。

 そんな末席の記者が初めて、ある人物に何かを訊きたいという衝動に駆られた。誰に言われるでもなく、ひとりドアをノックしてみようと思った。

関連キーワード

関連記事

トピックス

SNSで出回る“セルフレジに硬貨を大量投入”動画(写真/イメージマート)
《コンビニ・イオン・スシローなどで撮影》セルフレジに“硬貨を大量投入”動画がSNSで出回る 悪ふざけなら「偽計業務妨害罪に該当する可能性がある」と弁護士が指摘 
NEWSポストセブン
女優の広末涼子容疑者が傷害容疑で現行犯逮捕された(左/時事通信フォト)
広末涼子の父親「話すことはありません…」 ふるさと・高知の地元住民からも落胆の声「朝ドラ『あんぱん』に水を差された」
NEWSポストセブン
筑波大学の入学式に出席された悠仁さま(撮影/JMPA)
悠仁さま、入学式で隣にいた新入生は筑附の同級生 少なくとも2人のクラスメートが筑波大学に進学、信頼できるご学友とともに充実した大学生活へ
女性セブン
漫画家・柳井嵩の母親・登美子役を演じる松嶋菜々子/(C)NHK 連続テレビ小説『あんぱん』(NHK総合) 毎週月~土曜 午前8時~8時15分ほかにて放送中
松嶋菜々子、朝ドラ『あんぱん』の母親役に高いモチベーション 脚本は出世作『やまとなでしこ』の中園ミホ氏“闇を感じさせる役”は真骨頂
週刊ポスト
都内にある広末涼子容疑者の自宅に、静岡県警の家宅捜査が入った
《ガサ入れでミカン箱大の押収品》広末涼子の同乗マネが重傷で捜索令状は「危険運転致傷」容疑…「懲役12年以下」の重い罰則も 広末は事故前に“多くの処方薬を服用”と発信
NEWSポストセブン
『Mr.サンデー』(フジテレビ系)で発言した内容が炎上している元フジテレビアナウンサーでジャーナリストの長野智子氏(事務所HPより)
《「嫌だったら行かない」で炎上》元フジテレビ長野智子氏、一部からは擁護の声も バラエティアナとして活躍後は報道キャスターに転身「女・久米宏」「現場主義で熱心な取材ぶり」との評価
NEWSポストセブン
人気のお花見スポット・代々木公園で花見客を困らせる出来事が…(左/時事通信フォト)
《代々木公園花見“トイレ男女比問題”》「男性だけずるい」「40分近くも待たされました…」と女性客から怒りの声 運営事務所は「男性は立小便をされてしまう等の課題」
NEWSポストセブン
元SMAPの中居正広氏(52)に続いて、「とんねるず」石橋貴明(63)もテレビから消えてしまうのか──
《石橋貴明に“下半身露出”報道》中居正広トラブルに顔を隠して「いやあ…ダメダメ…」フジ第三者委が「重大な類似事案」と位置付けた理由
NEWSポストセブン
小笠原諸島の硫黄島をご訪問された天皇皇后両陛下(2025年4月。写真/JMPA)
《31年前との“リンク”》皇后雅子さまが硫黄島をご訪問 お召しの「ネイビー×白」のバイカラーセットアップは美智子さまとよく似た装い 
NEWSポストセブン
異例のツーショット写真が話題の大谷翔平(写真/Getty Images)
大谷翔平、“異例のツーショット写真”が話題 投稿したのは山火事で自宅が全焼したサッカー界注目の14才少女、女性アスリートとして真美子夫人と重なる姿
女性セブン
フジテレビの第三者委員会からヒアリングの打診があった石橋貴明
《中居氏とも密接関係》「“下半身露出”は石橋貴明」報道でフジ以外にも広がる波紋 正月のテレ朝『スポーツ王』放送は早くもピンチか
NEWSポストセブン
女優の広末涼子容疑者が傷害容疑で現行犯逮捕された
〈不倫騒動後の復帰主演映画の撮影中だった〉広末涼子が事故直前に撮影現場で浴びせていた「罵声」 関係者が証言
NEWSポストセブン