スポーツ

落合博満が番記者との別れ際に放った一言「俺の話はしない方がいい」

「俺の話はしない方がいい」の真意とは(時事通信フォト)

「俺の話はしない方がいい」の真意とは(時事通信フォト)

 仏頂面で腕を組み無言のままベンチに座る──球史に数多いる監督の中でも毀誉褒貶が激しいのが、落合博満だ。そんな彼の素顔に肉薄したノンフィクション『嫌われた監督』(文藝春秋刊)がベストセラーになっている。著者の鈴木忠平氏が本誌に特別寄稿した。(全4回の第4回)

 * * *
 私が監督としての落合と最後に会ったのは、2011年の12月だった。クリスマス間近のよく晴れた日だった。

 その日、私は名古屋の東部にある落合のマンションに向かっていた。落合はすでに中日の監督を退任することが決まっていて、ソフトバンクホークスとの日本シリーズを戦い終えていた。

 それと前後して、私もチームの担当を離れることになった。別れの礼儀としてそれを伝えにいったのだった。

「ちょっと乗れよ」

 ほとんど手ぶらでマンションを出てきた落合はそう言って、タクシーに乗り込んだ。

 名古屋の中心街へと向かう車中で転勤を告げると、落合は「そうか」と言った。そして私を見た。

「ひとつ覚えておけよ」

 何かの核心に触れるときの顔だった。

「お前がこの先いく場所で、俺の話はしない方がいい。するな」

 私は一瞬、何を言われているのか理解できなかった。プロ野球の世界では、別れ際に「自分のことを忘れないでくれ」と言う取材対象はいても、「自分の話はするな」と言う人物は見たことがなかったからだ。

 落合は窓の外へと視線を移すと、空を見上げながら続けた。

「俺のやり方が正しいとは限らないってことだ。お前はこれからいく場所で見たものを、お前の目で判断すればいい。俺は関係ない」

 言葉の真意がどこにあるのか。静かな口調と、淡々とした表情からは何も読み取れなかった。

 あの日もやはり、落合は問いだけを残していった。

「おお……そうか」

 落合は一体、何を伝えようとしたのだろう。あれから10年が経った今も、自問は続いている。

関連キーワード

関連記事

トピックス

9月に成年式を控える悠仁さま(2025年4月、茨城県つくば市。撮影/JMPA)
悠仁さまが学園祭にご参加、裏方として“不思議な飲み物”を販売 女性グループからの撮影リクエストにピースサイン、宮内庁関係者は“会いに行ける皇族化”を懸念 
女性セブン
V9伝説を振り返った長嶋茂雄さんのロングインタビューを再録
【長嶋茂雄さんロングインタビュー特別再録】永久不滅のV9伝説「あの頃は試合をしていても負ける気がしなかった。やっていた本人が言うんだから間違いないよ」
週刊ポスト
山尾志桜里氏(=左。時事通信フォト)と望月衣塑子記者
山尾志桜里氏“公認取り消し問題”に望月衣塑子記者が国民民主党・玉木代表を猛批判「自分で出馬を誘っておいて、国民受けが良くないと即切り捨てる」
週刊ポスト
“超ミニ丈”のテニスウェア姿を披露した園田選手(本人インスタグラムより)
《けしからん恵体で注目》プロテニス選手・園田彩乃「ほしい物リスト」に並ぶ生々しい高単価商品の数々…初のファンミ価格は強気のお値段
NEWSポストセブン
オンラインカジノを利用していたことが判明した山本賢太アナウンサー(ホームページより)
フジテレビ・山本賢太アナのオンラインカジノ問題で懸念される“局内汚染”「中居氏の問題もあるなかで弱り目に祟り目のダメージになる」
週刊ポスト
「〈ゆりかご〉出身の全員が、幸せを感じて生きられるのが理想です。」
「自分は捨てられたと思うのは簡単。でも…」赤ちゃんポスト第1号・宮津航一さん(21)が「ゆりかごは《子どもの捨て場所》じゃない」と思う“理由”
NEWSポストセブン
都内の人気カフェで目撃された田中将大&里田まい夫妻(時事通信フォト/HPより))
《ファーム暮らしの夫と妻・里田まい》巨人・田中将大が人気カフェデートで見せた束の間の微笑…日米通算200勝を目前に「1軍から声が掛からない事情」
NEWSポストセブン
浅草・浅草寺で撮影された台湾人観光客の写真が物議を醸している(Xより)
「私に群がる日本のファンたち…」浅草・台湾人観光客の“#羞恥任務”が物議、ITジャーナリスト解説「炎上も計算の内かもしれません」
NEWSポストセブン
ブラジルを公式訪問されている秋篠宮家の次女・佳子さま(時事通信フォト)
《スヤスヤ寝顔動画で話題の佳子さま》「メイクは引き算くらいがちょうどよいのでは…」ブラジル訪問の“まるでファッションショー”な日替わり衣装、専門家がワンポイントアドバイス【軍地彩弓のファッションNEWS】
NEWSポストセブン
2013年大阪桐蔭の春夏甲子園出場に主力として貢献した福森大翔(本人提供)
【10万人に6例未満のがんと闘う甲子園のスター】絶望を支える妻の献身「私が治すから大丈夫」オリックス・森友哉、元阪神・西岡や岩田も応援
NEWSポストセブン
ブラジル公式訪問中の佳子さま(時事通信フォト)
《佳子さまの寝顔がSNSで拡散》「本当に美しくて、まるで人形みたい」の声も 識者が解説する佳子さま“現地フィーバー”のワケ
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 食卓を汚染する「危ない輸入冷凍食品」の闇ほか
「週刊ポスト」本日発売! 食卓を汚染する「危ない輸入冷凍食品」の闇ほか
NEWSポストセブン