小松菜奈(25才)が初の単独主演を務めた映画『ムーンライト・シャドウ』が9月10日より公開中だ。宮沢氷魚(27才)との共演でも大きな話題となっていた本作だが、特に注目を集めているのが、恋人と兄を同時に亡くした少年・柊役を演じた佐藤緋美(21才)だ。浅野忠信(47才)とChara(53才)を両親に持ち、モデルとしても活躍する佐藤。“二世”の肩書きに負けない佐藤の魅力について、映画や演劇に詳しいライターの折田侑駿さんが解説する。
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『ムーンライト・シャドウ』は、愛する恋人を失った1人の女性が、大きな喪失感に向き合いながらも、前に進む姿を描いた作品。世界30か国以上で翻訳されている吉本ばなな(57才)による同名短編小説(新潮社刊『キッチン』収録作品)を、映画『アケラット-ロヒンギャの祈り』や『Malu 夢路』などの作品が国際的な評価を得た、マレーシア出身のエドモンド・ヨウ監督(37才)が実写映画化した。
あらすじはこうだ。最愛の恋人・等(宮沢氷魚)と幸福な日々を過ごしていた主人公・さつき(小松菜奈)。彼女はある日、交通事故で等を失ってしまう。大きな喪失感を抱え、なかなか立ち直ることができないさつきだったが、“死者ともう一度会えるかもしれない”という「月影現象」を知る。彼女は等と再会を果たすため、彼と多くの時間を過ごした川へと向かう。
本作は、何よりもまずキャスティングが素晴らしい。単独初主演の小松は、1人の女性が経験する幸福な時間と突然の不幸、そしてそこからの再起を限られたセリフや表情、動きでミニマルに表現している。会話劇がメインの作品や、モデルでもある彼女の被写体としての魅力が際立つ作品など、これまでのキャリアの全てが詰まった主演作になっているのではないかと思う。そんな主人公・さつきとともに喪失感に向き合うのが、等の弟であり、兄と自身の恋人を同時に亡くした少年・柊役に抜擢された佐藤緋美だ。
浅野忠信とCharaを両親に持ち、いわゆる“二世俳優”である佐藤。SNSには「柊役の子が素晴らしくて調べたら、浅野忠信とcharaの息子で驚き」といった声が多く見られ、本作で彼の存在を知った人は少なくないようだ。だが、佐藤は決して“鳴り物入り”でデビューしたわけではない。筆者は、2018年に上演された舞台『書を捨てよ町へ出よう』で俳優デビューした佐藤を始めて観たが、日本の現代演劇の最前線で活躍する藤田貴大(36才)の演出や、藤田作品の常連共演者陣に必死に食らいつこうとしていた姿は今でも強く印象に残っている。彼が二世俳優であることは後で知った。