アメリカのなかでもリベラル勢力の牙城で、女性の尊厳を守ることにはことのほか熱心なカリフォルニア州で「反ステルシング法」が10月11日に制定された。「ステルシング」とは、数年前からLGBTQ(性的マイノリティ)の間で使われるようになったスラングで、当初は性感染症であることを隠したり、トランスジェンダーが「生まれた時の性別」を隠して生活したりすることを指したが、その後転じて、「男性がセックス中に女性に無断でコンドームを外す行為」を表す新語となった。「ステルス戦闘機」と語源は一緒で、「こっそりと、内密に」といったニュアンスがある言葉だ。カリフォルニア州では、このステルシングを「準レイプ」と認定したのである。
アメリカでは21~30歳の女性のうち12%がステルシング被害に遭ったことがあるという調査結果も出ている。2017年にその実態を論文にまとめたのは、イェール大学法科大学院生だったアレキサンドラ・ブロドスキーさん(現在は公民権専門弁護士)。彼女自身、ステルシングの被害に見舞われ、他の被害者数人と訴訟を起こしたこともある。ブロドスキーさんは論文でこう訴えた。
<たとえ合意の下でセックスしていても、その最中に女性が嫌がるのにコンドームを外し、女性の体内で射精する行為は、女性を侮辱し、非道徳であるばかりでなく、レイプと同じ犯罪行為である>
<女性はセックスには同意しても、妊娠したり、性感染症を移されたりすることに合意したわけではない。男性はコンドームなしで射精することで快感を高めたり、征服感を味わったりしたいのだろうが、女性にとっては屈辱であり、レイプと変わりない。立法府はステルシング防止の法的措置を検討すべきだ>
この論文はたちまちネットで話題となり、賛同する声だけでなく、「どうしたらステルシングを楽しめるか」といった不届きな男性サイドのノウハウを紹介するサイトが登場するなどして大きな論争に発展したのである。そして、女性のセクハラ被害を訴えるMe Too運動に熱心だった州下院のクリスティーナ・ガルシア議員が法制化に尽力し、このたび反ステルシング法が成立したという経緯だ。
もちろん同州でも保守系勢力は反対に回り、「セックスは個人の問題だ」「女性がコンドームを外さないでほしいと考えていたことを立証できるのか」といった意見も出た。しかし、その間にイギリスやカナダ、オーストラリア、ニュージーランドなどでも反ステルシングが法制化されたり、同様の行為が裁判で有罪とされたりして世界的な流れになり、2020年には英BBCテレビの人気ドラマ「アイ・メイ・デストロイ・ユー」(君をめちゃめちゃにするかもしれない)でステルシングの場面が描かれたことで大衆の間でも関心が高まっていた。