10月31日投開票の総選挙に向けて、一部の選挙区では自民党の候補者選びがギリギリまで難航した。10月15日には2次公認の35人が発表されたが、複数の候補予定者が競合していた「山口3区」では、二階派の重鎮が公認から漏れ、引退に追い込まれた。総選挙直前の総理交代に伴って、後ろ盾だった二階俊博氏が幹事長を退任するという権力構図の変化があったことに加え、保守王国・山口の“多すぎる世襲議員”という問題も垣間見える。
山口3区では、二階派幹部の河村建夫・元官房長官と、参院からの鞍替えを狙う林芳正・元文科相が立候補の構えを見せていたが、最終的に党本部は林氏の公認を決定。河村氏は引退し、同氏の長男が比例中国ブロックの名簿に掲載される見込みだ。全国紙政治部記者が解説する。
「党本部で選挙を取り仕切る幹事長が二階氏のままであれば、現職だった河村氏が公認から外れる展開にはならなかったかもしれない。ただ、林氏は無所属でも出馬する構えだったから、河村氏が公認されても選挙で敗れていた可能性はある。
結局、有力政治家を多く輩出してきた山口では、世襲を目論む議員の数に対して、選挙区が足りないという現象が起きていて、それが自民党内での諍いにつながっている一面がある」
戦後、山口選出の政治家からは岸信介、佐藤栄作、安倍晋三という3人の総理大臣が生まれている。岸氏の長女・洋子さんと安倍晋太郎・元外相の息子が、山口4区で選出されてきた安倍氏であり、山口2区の岸信夫・防衛相だ(生後間もなく岸家の養子となったため岸姓)。山口1区の高村正大氏も父は高村正彦・元自民党副総裁、そして今回、山口3区での公認が決まった林氏も、父は林義郎・元蔵相。“世襲率100%”の県なのだ。県連関係者はこう言う。
「中選挙区時代の旧・山口1区は、定数4で自民党の候補が3人当選する“保守王国”だった。
小選挙区制導入前の最後の総選挙となった1993年は、すでに安倍晋太郎氏から代替わりしていた安倍晋三氏、代替わり前だった林義郎氏、そして今回引退した河村建夫氏の3人が当選。それが1996年の総選挙から小選挙区制になって、旧・山口1区は新たに山口3区、4区に分割された。枠が1つ足りないため、3区に河村氏、4区に安倍氏、そして林氏は比例中国ブロックに回るという調整になった経緯がある」
この時に比例に回った林義郎氏の長男である芳正氏は1995年に参院山口選挙区から出馬して議席を得て以降、これまでに当選5回を重ねてきた。「総理を目指すうえで必須となる衆院の鞍替えをうかがってきたが、なかなかチャンスが巡ってこなかった」(同前)というなかで、今回ついに二階派の重鎮である河村氏から議席の“奪取”を試みたわけだ。自民党関係者が語る。
「林氏は今回が鞍替えのラストチャンスと考えたのでしょう。『1票の格差』の是正のために次の次の衆院選から、“10増10減”といわれる小選挙区の区割りの見直しが行なわれる見通しです。
これによって山口県の定数は4から3に減る見込み。そうなれば、林氏が衆院に鞍替えするのは今以上に困難となる。今回、小選挙区で自民党から公認された高村氏、岸氏、林氏、安倍氏はいずれも盤石の戦いとなる見込みだが、次の衆院選では4人のなかで公認候補となるための“椅子取りゲーム”が発生するのは必至だろう」