がんが見つかった時、患者がまず直面するのは「どの治療を選択するか」という問題だ。がんの「3大治療」といえば「手術(外科治療)」「放射線治療」「化学療法(抗がん剤)」が知られているが、なかでも第一選択肢として医師から提案されることが多いのは「手術」である。
国立がんセンター中央病院薬物療法部医員を務めたことのある医療ガバナンス研究所理事長の上昌広医師は、肺がんについて、「初期はとにかく手術する選択が有力」としたうえで、ステージが進んだ場合、どういった手術を選ぶかも重要になると指摘する。
「肺がんのステージ4では開胸手術に比べて胸腔鏡下手術の生存率が大きく上回ります。これは、初回治療で胸腔鏡下手術が可能な患者さんは、ステージ4のなかでも相対的にがんが小さいなど状態が良い“バイアス”の可能性も考えられますが、小さな穴を開けるだけの胸腔鏡下手術は、開胸手術よりも身体への負担や合併症などのリスクが少ないということでもある。負担が少ない=回復が早いので、高齢の患者さんにも手術を行なうことができます」
一方、肝臓がんや膵臓がんは、ステージが進むごとに腹腔鏡下手術が選ばれるケースが激減する。『親子で考える「がん」予習ノート』(角川新書)の著書がある一石英一郎医師(国際医療福祉大学病院教授)が語る。
「肝臓は臓器のなかで最も大きく、膵臓は臓器のなかで最も奥の胃の裏側にあります。病期が進むと内視鏡で体内を見る腹腔鏡下手術では全体を俯瞰的に見るのが困難で、死角が生じやすい。より術野が広くできる開腹手術が選択されます。ただ、発見された時には進行していることの多い膵臓がんは、手術自体が“労多くして益少なし”となることも少なくありません」
医師に「手術」を提案された時に、患者はどう対処すればいいのか。自身の食道がん闘病について記した『ドキュメント がん治療選択』(ダイヤモンド社)を7月に上梓したジャーナリストの金田信一郎氏(会員誌『Voice of Souls』代表)は、ステージ3の食道がんと診断され東大病院に入院後、“逃亡”し、結局、手術を回避する道を選んだ。金田氏が言う。
「地元のクリニックでがんと言われた時は『まあ、取れるだろ』と考えていました。ところがその後調べると、食道がんの手術は肋骨を折って肺をしぼませて、ようやく手術ができるという。それなのに入院した東大病院では外科手術ありきで治療が進んでいきました。セカンドオピニオンのために転院した先の病院でも他の治療法は提案されませんでした」
その後、金田氏は職業柄さまざまな資料を読み込み、手術だけでなく放射線治療という選択肢があることを知る。
「生存率では放射線治療のほうが低いことはわかっていましたが、術後の生活のことを考え手術回避を選びました。仮に手術に成功しても、食道という臓器を失って普通の食事ができなくなる。放射線なら、治療が成功すれば何事もなかったかのように生活できます。この10年で放射線治療の技術がかなり向上していること、入院先の国立がんセンターが食道がんの放射線治療で多くの実績があることを知り、土壇場で手術を止めることにしました」(金田氏)