多くの人にとって身近な悩みである腰や膝などの痛みの治療法はどのように選択すべきか。横浜市立大学附属市民総合医療センター教授の北原雅樹医師が語る。
「変形性膝関節症や変形性股関節症の手術を受ける人で気をつけなければいけないのは、『肥満体型』の場合です。体重の負担で膝や股関節が悪くなっている場合、手術すれば一時的に関節症は改善しますが、しばらくすると痛みが再発して、再手術が必要となることがある。
本来は運動療法や食事療法などとセットで治療方針を決めるべき。その計画がないまま安易に手術を勧める医師は避けたほうがよい」
歳を重ねてからリスクのある「2回目」の手術を受ける患者も増えているという。
「人工膝関節は15~20年、人工股関節が30年はもつとされます。しかし60代で手術をした人が80歳を超えて2度目の手術をするのは体力的にリスクが大きく最悪の場合、寝たきりになってしまう危険がある」(北原医師)
医師によって意見が分かれるのが「脊柱管狭窄症」の治療だ。
「背骨の神経が圧迫されることで頸椎、胸椎、腰椎や周辺部に痛みが出る病気です。特に腰に痛みが出る場合、手術で体力を使い、術後のリハビリの負担が大きい上、症状があまり改善しないことがあります。日常生活が継続できないような痛みが生じない限り、手術は行なわないほうがいいでしょう」(北原医師)
そもそも慢性痛の手術は「完治」しないケースが多いとされる。
「膝や腰などの慢性的な痛みは手術をしても一発で治るケースは少ない。まずは運動をすることで筋肉をつけて関節などを支えられるようにして、肥満の場合は減量を行なう。さらに、場合によっては患部にヒアルロン酸などの注射を打つなどの保存的療法を行なえば、手術をしなくても慢性痛の改善は十分に期待できます」(北原医師)
年齢を重ねるごとに、知らぬ間に様々な病魔に襲われるリスクが増す。なるべく身体に負担のかからない治療法を試みたい。
※週刊ポスト2021年10月29日号