牡馬三冠レース最後の関門、今年は例年とはやや異なる趣きだ。競馬ライターの東田和美氏が分析した。
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皐月賞馬もダービー馬も出ない菊花賞は、平成以降で9回もある。体調が整わなかったり、故障したりしたケースもあるが、3000mという距離を嫌って別路線に向かうことが多くなったことが最大要因。菊花賞馬の勲章は、種牡馬としての価値には貢献しないのだ。
9回のうち5回の覇者は条件馬で、2勝クラス(旧900万、1000万)までしか勝っていない馬だった。2019年に勝ったワールドプレミアも勝ったのは3歳1勝クラスのつばき賞まで。神戸新聞杯で3着に入って出走権を獲得したものだ。そんな馬が3番人気に支持されて勝ち、1年半後には天皇賞(春)まで勝っている。
またそれ以外でも条件馬の身で菊花賞馬になったのは4頭。格上挑戦だからといって斤量が軽くなることもないのに勝ち切っている。通用するとかしないとかではない。どの馬も3000mは未知。同じ3歳馬同士、適性と順調度、経験や成長度合いが問われる。まずは条件馬の可能性について検討してみる。
アメリカ産馬エアサージュは前走2600mを勝っている。二の脚が速く、すっと先行できるセンスの良さがある。道中も折り合いがつくし、直線で先頭に立つと、大きな飛びの走法でなかなか抜かせないしぶとさがある。ただ1度の敗戦も勝ち馬からはコンマ3秒と、いまだ底を見せていない。
兄はダート重賞の東海SやLエニフSを勝っているエアアルマス(父マジェスティックウォリアー)。そしてPoint of Entry産駒といえば今年の関屋記念(新潟1600m)を勝ったロータスランドだが、自身は芝9F~12Fの米GⅠを5勝しており、BCターフでも2着。産駒は本来芝の長距離に適性があるはずだ。
ヴェローチェオロは2歳時からエフフォーリア、ダノンザキッド、ソダシ、ユーバーレーベンといった同世代のトップクラスと接戦してきたことが、ここにきて生きている。ダート戦以外はすべて掲示板を確保しており、大崩れしない堅実さが魅力だ。同厩、同馬主のステラヴェローチェがマークされているが、父ゴールドシップの血が騒ぎだしてもおかしくない。
唯一の牝馬ディヴァインラヴは夏を迎えて馬が一回り大きくなり、この鞍上になってからレースぶりも安定してきて連勝中。父も母の父もこのレースを制しており、上位への食い込みを期待したい。
条件馬ではないがオーソクレースは2歳時に出世レースと言われるアイビーSを勝ち、暮れのホープフルSで2着になりながら骨折でクラシックへの出走がかなわなかった。休み明けの前走セントライト記念はなんとか3着を確保。ルメール騎乗で人気になりそうだが、“菊花賞血統”に加えて母も2200mのGⅠを2勝している超良血馬だけに、叩き2走目でさらなる上昇が見込める。
平成以降の菊花賞馬で皐月賞にもダービーにも出走したのは32頭中半分以下の15頭。そのうちダービーで掲示板を外していたのはキタサンブラックだけ。ダービーだけ出走した菊花賞馬は3頭でそのうち2頭はダービー2着。他の14頭は春のクラシックとは無縁だった。春のクラシックで上位に来ていなければ、秋の長丁場は戦えないということがいえる。