新型コロナウイルスの蔓延がおさまりつつあるいま、世界は少しずつ、別の病に侵食され始めている。イギリスの医学雑誌『ランセット』によれば、2020年にうつ病に罹患した人の数は1.3億人にものぼるという。特にその数は女性に顕著で、女性の患者数は男性の2倍だといわれている。
その理由は、神経伝達物質であり“幸せホルモン”ともいわれるセロトニンにある。そもそも、この“幸せホルモン”とはどんな物質なのか。セロトニン研究の第一人者で医師の有田秀穂さんが解説する。
「セロトニンが多く分泌され、脳に働きかけると、自律神経の交感神経にも作用し、精神のバランスが取れて、ポジティブで落ち着いた平常心をつくり出してくれる。交感神経が刺激されるため、体の活動も活発になる。活力が湧いて頭の回転がよくなったり体の痛みが和らいだりする効果もあります」
裏を返せば、セロトニンが減少すればそれだけうつ状態になりやすくなるということ。RESM新横浜睡眠・呼吸メディカルケアクリニック院長の白濱龍太郎さんは、セロトニンの分泌能力には男女差があると指摘する。
「女性のセロトニン分泌量は男性の3分の2にとどまります。そのうえ、女性はエストロゲンと呼ばれる女性ホルモンの状態によってセロトニンの分泌量が左右されやすい。セロトニンの分泌はエストロゲンによって活性化されますが、月経や出産などで増減するうえ、閉経すればエストロゲンの量は大幅に減少してしまいます。特に年を重ねた女性はうつになりやすいのです」
実際に厚生労働省が行った2017年の調査によれば、40代以上の女性のうつ病罹患率が最も高いという結果になっている。もともとリスクが高いうえ、これからの季節は特に注意が必要だ。
「セロトニンは太陽光を浴びると合成されやすいという特徴もあり、秋から冬にかけては日照時間が減少するため、“冬季うつ”になる人もいます。加えてコロナ禍で在宅時間が長くなり、日中は外に出ないばかりか、夜遅くまでスマホやパソコンを見て、セロトニンの分泌量が激減している人が増えています。
この状態になれば良質な睡眠を促すホルモンであるメラトニンも生成されなくなり、充分な睡眠が取れず体調を崩す人も多い。意識してセロトニンが増えるような生活をするべきです」(白濱さん)