コロナ禍の巣ごもり生活や在宅勤務の広がりで「エンゲル係数」が急上昇している。消費に占める食費の比率を指すが、年収が上がるほどエンゲル係数が低くなるという法則も崩れている。いったいなぜなのか。ニッセイ基礎研究所主席研究員の篠原拓也氏が、コロナ後のリベンジ消費の見通しも含めて考察する。
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新型コロナは、9月以降、第5波の新規陽性者数が急速に減少した。重症者数も減少し、各地の医療の逼迫も緩和された。その要因として、専門家からは、一般市民の感染対策強化、人流(特に夜間の滞留人口)の減少、ワクチン接種率の向上などが挙げられている。ただ、冬には第6波の襲来も懸念されるため、警戒と対策を続けるべきとの指摘もある。
緊急事態宣言は9月末に解除された。現在は経済の再開に向けて、飲食店の時短営業の解除、各種イベントの人数制限の緩和などが実施されている。旅行会社では、ワクチン・検査パッケージの実証実験の対象ツアーも始まっている。
ただ、企業によっては、テレワークの定着が進んだところもあり、人々の生活が単純にコロナ前に戻ることはないとの見方も出ている。読者にも、巣ごもり生活が続いた結果、外食が減ったという人は多いだろう。
「家計調査」(総務省)によると、消費支出に占める食費の割合である“エンゲル係数”がコロナ禍で上昇しているという。今回は、コロナ禍と食の変化について、考えてみることとしたい。
1984年以来の水準に急上昇したエンゲル係数
エンゲル係数は、19世紀のドイツの経済統計学者エルンスト・エンゲルにちなむ。彼が、ザクセン王国やプロイセン王国の統計局長を歴任した際、家計調査の結果から見出した、「所得が高くなるにつれ、エンゲル係数は低くなる」という法則が、「エンゲルの法則」として知られている。
エンゲルの法則は、日本でも戦後の復興や高度経済成長の様子によく当てはまった。洗濯機、冷蔵庫、テレビ、クルマ、海外旅行など、食費以外の消費が増えて、国民の生活水準が上がるとともに、エンゲル係数は低下してきた。この係数は、国民の豊かさを表象する指標ともいえた。
エンゲル係数は、この30年あまり20%台前半で推移してきたが、2020年には26%にまで跳ね上がった。前年に比べて、2ポイント以上の急上昇だ(別掲図1参照)。この水準は1984年以来となる。背景として考えられるのが、コロナ禍の影響である。