日本臨床内科医会の調査(2016年)によれば、40歳以上の男性の3分の1、実に1130万人の男性がED(勃起不全)に悩まされている。年齢と共に“活力”を失っていくことは避けられない──そう諦めている人も多い。だが、ED治療は日進月歩で進化している。いま受けられる夢の治療を紹介する新シリーズ。第1回は最先端の「幹細胞注射治療」をレポートする。
世界中の医者が注目
ベッドに横たわり、ズボンとパンツを脱ぐ『週刊ポスト』の54歳記者。久しく漲ることを忘れた下半身を見て、情けなくなるのも束の間。男性医師がアルコールシートで優しく消毒すると、慣れた手つきで“根元”をゴムバンドで縛った。
「すぐに済みますので」
そう言うと、医師が陰茎の裏から注射を2回打つ。目視できないほどの極細の針で、痛みがほとんどない。20分後にはそのまま帰宅し、翌朝起きると、忘れかけていた「あの感覚」が股間に蘇っていた──。
生涯現役を目指す男たちの天敵であるED。経口薬や衝撃波療法など様々な治療法が研究されるなか、最先端として医学界で注目を集めているのが、注射一本でEDを根治させると言われる「幹細胞治療」だ。
「従来のED治療とは一線を画す施術として、世界中の医師が期待を寄せています」
医療経済ジャーナリストの室井一辰氏がそう語るこの幹細胞治療とは、どんなものなのか。
人体の骨、血液、筋肉などあらゆる組織や臓器は、細胞からできている。幹細胞はこれらの細胞の元となるもので、すべての種類の細胞に分化する能力を持つ。京都大学の山中伸弥教授が開発して2012年にノーベル医学・生理学賞を受賞したiPS細胞も幹細胞の一種だ。
幹細胞の働きを利用して、ケガや病気で損傷した臓器などの回復をめざす「再生医療」が注目されているが、こうした技術をEDの改善に応用したのが幹細胞治療だ。
「2000年代に始まった幹細胞の研究は山中教授のノーベル賞受賞で一気に盛り上がり、2015年頃からED治療への応用が各国で試みられてきた。米国では骨髄などから採取した幹細胞をペニスに注射することで、老化によって衰えたペニスの細胞を復活させる研究が進み、臨床実験でも陰茎硬化症等の病気の改善を含め、良好な結果が発表されています」(室井氏)
ED治療を行なう東京予防医療クリニック総院長の森吉臣医師は、「幹細胞治療には2つの方法がある」と解説する。
「ひとつは自分の骨髄や脂肪などから採取した幹細胞を培養して、体内に移植する方法です。もうひとつは、幹細胞を育てる過程で分泌されたエキスを含む『培養上清液』を注射し、細胞の機能を修復・再生する方法。こちらは幹細胞そのものを移植するのではなく、他人から採取した幹細胞を用いることができる」
この治療法の特筆すべき点は、勃起力を細胞レベルで回復させるだけでなく、ED治療薬にある「副作用」の心配がほとんどないことにある。