勝負はフタを開けてみなければわからない。改めてそう思わせてくれる2021年のプロ野球シーズンだった。コラムニストの石原壮一郎氏が考察した。
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世の中、何が起きるかわかりません。今年のプロ野球は、そのことをあらためて思い知らせてくれたと言えるでしょう。セ・リーグはヤクルト、パ・リーグはオリックスと、どちらも2年連続で最下位だったチームがリーグ優勝を果たしました。
この先、日本シリーズへの出場権をかけたクライマックスシリーズがありますが、2021年のシーズン全体を通して「リーグでもっとも強かった」のは、この2チームです。シーズン前にこの結果を誰が予想したでしょうか。そう、誰も予想していませんでした。
毎年、プロ野球の開幕前には、たくさんの野球評論家やスポーツメディアが、今シーズンの順位を予想します。たとえばフジテレビ系の『プロ野球ニュース』では、22名の解説者が予想を発表しました。セ・リーグは6割以上に当たる14名が、2年連続リーグ優勝を果たしている巨人の優勝を予想(実際は3位)。パ・リーグも13人が、日本一4連覇を成し遂げたソフトバンクの優勝を予想しました(実際は4位)。
セで優勝したヤクルトは、22人のうち半数の11人が最下位になると予想。5位が7人で4位が2人。Aクラスの3位になると予想したのは江本孟紀氏とヤクルトOBの真中満氏だけでした。パで優勝したオリックスも、最下位が3人、5位が10人、4位が8人。3位と予想したのは松本匡史氏だけです。1位か2位になると予想した人はゼロでした。
いわゆる一般紙も、順位予想はありませんが、開幕前にはシーズンの展望や各チームに関する寸評を掲載します。ヤクルトは「投手陣に不安残す」(毎日新聞)、「先発陣の枚数に不安を抱える」(朝日新聞)、「苦しい投手陣」(読売新聞)と投手力を酷評されました。しかし、エースの小川や2年目の奥川らの活躍で、リーグ3位の防御率を残しています。
オリックスも、投手陣は比較的高評価でしたが「課題は2年連続リーグ最少の得点力」(毎日新聞)、「得点力不足解消が課題」(読売新聞)と、打撃が不安視されていました。ところが、主砲の吉田(正)が2年連続首位打者となり、大化けした杉本が3割30本を達成して本塁打王に輝くなど、チーム打率と本塁打数でリーグ1位となっています。
いや、予想が外れたことを責めたいわけでも揶揄したいわけでもありません。予想は外れるものであり、外れるからこそ世の中や人生が楽しく盛り上がってくれます。あらためて思い知ったのは「あいつはしょせん負け組」「あの会社(メンバー)にこんなことはできっこない」という決めつけは、ひじょうに危険だということ。逆に「あいつにはかなわない」「どうせまたあの会社の勝ち」といった負け犬根性を持つ必要はないということ。
世の中の大半は、巨人やソフトバンクのような「勝って当たり前の存在」ではありません。そういう人は、例えとしての「去年までのヤクルトやオリックスのような存在」なんて眼中にないでしょう。ほとんどの人は、ヤクルトだったりオリックスだったり、あるいは中日だったり日本ハムだったりします。
ところが、ヤクルトもオリックスも見事にやってくれました。予想を覆して、客観的な戦力不足を各自のやる気やチームワークではね返しました。両チームのファンじゃなくても、ぜんぜんかまいません。次の3つの勇気を授かってしまいましょう。
その1「どうせ勝てないと見られているからといって卑屈になる必要はない」
その2「手持ちの武器が足りなくても、どうにかなるときはどうにかなる」
その3「負けても失うものはない。もし勝てたら、爽快感は半端ではない」