2020年に新型コロナウイルス(COVID-19)が世界でパンデミックを起こして以来、様々な場面で社会の分断と対立が起きていると語られてきた。社会の最小単位である家族だけは寄り添って暮らしたいと誰しもが思っているだろうが、現実には、家族だからこそ深刻な分断と対立が起きている。ライターの森鷹久氏が、ワクチン接種をめぐり起きた、ある家族の分断と対立を通して、コロナによって求められる社会との向き合い方について考えた。
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都内在住の会社員・副島真澄さん(仮名・30代)は10月、やっとのことで2度の新型コロナワクチン接種を終えた。本人は「ずっと打ちたかった」というが、その割に表情は曇ったままだ。
「これで家族はバラバラになってしまうかもしれない」
副島さんは九州出身で、大学卒業と同時に上京。現在は都内の大手デパートの正社員で、主に接客業務に当たっている。客と接触する機会が多い接客担当の社員向けに、夏ごろから「職域接種」が始まっていた。多くの社員が早々にワクチン接種を終えるなか、10月時点で、職場内でワクチン接種がまだだったのは、重いアレルギー性の疾患を持つ上司と副島さんだけだった。
「なぜ接種をしないのか、接種しないと働けなくなると何度も言われました。それでも本当のことを言うともっと面倒なことになりそうな気がして、今は体調が悪いとなんとか誤魔化してきました。でも、未接種者は接客担当から外すかもしれない、と言われ、覚悟を決めました」
ワクチンを打ってはならないと妹は本気だった
ワクチンが怖くなかった、と言えば嘘になる。SNS上では、ワクチンのせいで重い副反応が出るとか、障害が残るかもしれない、湿疹が出て髪の毛が抜け落ちるといった真偽不明の情報が飛び交い、不安な気持ちもあった。”不妊になる”と見た時は、ネットで何時間も調べたこともあった。だが、すでに身の回りにもワクチン接種を終えた知人が多く、やはり自分もワクチンを打つべきだとは感じていた。それでも副島さんを尻込みさせたのは、ワクチンを打ってはならないと激しく主張する妹の存在だ。
「妹は二人目を妊娠中にコロナ禍になり、ものすごくナーバスになっていました。もともと勉強熱心なところもあったのですが、それから色々と調べるようになり、ワクチンは毒だ、と考えはじめたようなんです。そのせいで、高齢の父親も母親も接種はまだ。私と弟は打つべき、と思っていましたが、妹が泣き喚いて”絶対に打つな”と言うものだから、困り果てていたんです」