総選挙で野党との戦いに疲弊した首相だが、待ち受けるのはさらに熾烈な党内政局だ。岸田政権の先行きに早くも暗雲が垂れ込めている──。
岸田文雄・首相と甘利明・幹事長は選挙直前のドサクサ人事で巧妙に安倍晋三・元首相と麻生太郎・副総裁(2A)を“手玉”に取った。細田派の分裂を煽って安倍氏の政権への影響力を削ぎ、麻生氏を副総裁に棚上げして事実上の“隠居”を促すなど、キングメーカーの2Aから実権を奪って総選挙後に政府と党の実権を完全に掌握しようと計略を張り巡らせてきたからだ。
“舐めた真似をしてくれたじゃないか”──総選挙が終わって、2Aは実権を取り戻すために岸田・甘利コンビに報復に出る。そのキーパーソンがいまや「タカ派のマドンナ」としてポスト岸田の有力な総裁候補に挙げられる安倍側近の高市早苗・自民党政調会長だ。
選挙応援で岸田首相以上に注目を浴び、公示日の10月19日に発射された北朝鮮の潜水艦発射弾道ミサイルの対応では2人の明暗が分かれた。
当日、岸田首相は仙台で応援中、松野博一・官房長官も地元の千葉に入っており、政府の危機管理の責任者2人が官邸を留守にしていたことが批判された。一方の高市氏は東京・足立区の駅前で応援演説に立ち、こう訴えた。
「北朝鮮が今朝、ミサイルらしきものを発射しました。官邸も防衛省も大変な状況です。日本の周りに存在するリスクに、しっかりと対処しなければ、私たちの命も暮らしも守れません」
聴衆の喝采を浴びた。総選挙公約づくりでも高市氏は首相を圧倒してみせた。
政調会長として公約をとりまとめた高市氏は、岸田首相が総裁選で掲げた「令和の所得倍増」計画や「住居費・教育費支援」「金融所得課税」といった目玉公約をことごとく外し、自分が総裁選で掲げた安倍路線の高市政策をズラリと並べた。
「岸田色が消され、安倍色が前面に出た。まるで高市内閣の公約のようだ」(岸田派中堅)と失望の声が上がったほどだ。