脳梗塞は突然、脳の血管が詰まる病気で、その多くが死亡、あるいは重篤なマヒなどが残る。今までマヒに対する直接的で有効な治療法はなかったが、このほど患者本人の骨髄から採取した間質幹細胞を培養し、障害された脳組織に投与する再生治療が開発された。現在、安全性を診る第1相試験が終了。7人のうち、6人が自力歩行可能となり、臨床現場での治療実施に期待が膨らむ。
動脈硬化などが原因で、脳に栄養を届ける動脈が血行不良を起こすのが脳梗塞だ。その血管から酸素や栄養を受けている神経細胞が死滅し、様々な症状をきたす。全国では年間約30万人の新規発症があり、死亡や重度のマヒなどの重篤な後遺症が残ることが多い。現在、寝たきりを示す要介護5認定者の約30%が脳梗塞の後遺症である。なのに手足のマヒや歩行障害に対しては障害を可能な限り軽度に留める薬物治療とリハビリによる機能回復のみで、根本的治療法がなかったのだ。
北海道大学病院脳神経外科の藤村幹教授に聞く。
「昔、脳細胞は再生しないと考えられていました。それでもマヒを回復させるには障害された神経細胞へのアプローチが必要だと考えたのです。そこで1990年代後半に脳梗塞モデル動物を作成して再生治療の研究を開始。その過程において骨髄より採取した間質幹細胞には様々な細胞に分化する能力があり、それを投与すれば神経細胞が再生する可能性があるとわかり、2001年に自家骨髄間質幹細胞を用いた基礎研究を始めたのです。
そして、2017年からは脳梗塞急性期患者に自家骨髄間質幹細胞を投与する第1相医師主導治験を実施し、今年4月に終了しました」
その第1相試験は脳梗塞発症約2週間目の急性期から慢性期に移行しつつある、重度のマヒが生じる可能性の高い患者を対象に行なわれた。まずは骨髄液を50cc採取して培養を開始。培養の期間、患者はリハビリなどの治療を続け、入院2か月目に自家骨髄間質幹細胞を投与する。