学会やエリートから蔑まれながら、迫りくる大災害に警鐘を鳴らし続ける孤高の科学者──。視聴率15%を超える人気ドラマ『日本沈没―希望のひと―』(TBS系)で、独自の研究でたどりついた「関東沈没説」を唱える田所博士(香川照之)は、いくら周りから疎まれても日本の危機を訴え続ける。その強烈なキャラクターが大反響を呼び、主人公の天海啓示(小栗旬)にも比肩する存在感を放っている。
そんな中、“リアル田所博士”とでも呼ぶべき研究者が在野にいる。『週刊ポスト』の「MEGA地震予測」でおなじみの東京大学名誉教授・村井俊治氏(82)である。
田所博士は東大教授として、GPSデータに基づく地震予測精度の向上に貢献したと説明されているが、現実にGPSを使った地震予測を日本で行なう研究者は数少なく、その一人が村井氏で、過去に東大教授を務めた点も共通している。
何よりも相通じるのは、両者の「生き様」だ。
田所博士は日本地球物理学界の異端児として扱われながら、独自の研究にのめり込む。一方で測量工学の権威である村井氏は地震予測に参入し、門外漢とされながら研究を続ける。村井氏が振り返る。
「測量工学者の私が地震予測を始めた際は、周囲から変人扱いされ、何度特許を出願しても難癖に近いかたちで拒絶されました。いくら画期的な地震予測法を開発しても、地震学会からは見向きもされませんでした」
時に現実はドラマを凌ぐ。異端の研究者はどのように誕生したのか。
ガーナに左遷
村井氏は正義感とともに行動する波乱万丈の人生を送ってきた。
1939年9月に戦前の東京で生まれ、敗戦の翌年に小学校に入学。戦後教育の一期生として勉学に励み、1959年に東京大学理科一類に進学し、大学時代はボート部で日本代表としてローマオリンピック(1960年)にも出場した。
東大を卒業後は、指導教官の勧めで建設コンサルタント会社に入社した。順風満帆な人生を送ってきた村井氏だったが、2年目に従業員への利益還元を求めてボーナス闘争を主導したことで会社に睨まれ、未開の地であるアフリカ・ガーナにダム調査の命令が出る。完全なる左遷だった。
慣れない現地では不測の事態が生じた。村井氏と事務員以外の20人ほどの日本人がマラリアを発症したのだ。そこで村井氏は独自調査を行ない、原因が栄養失調にあることを突き止めた。
「予算は潤沢なのに食事が粗悪だったので調査したら、現地の事務所長がコックやボーイに任せきりで食事代をごまかされていた。栄養状態を改善するため所長から予算を取り上げ、現地の市場で調達した新鮮な食料を連日スタッフに振る舞いました。結果、マラリア患者は激減して職員は大喜びでした」(村井氏・以下同)