2019年6月、米ワシントン大学や国立長寿医療研究センターなどの日米合同チームは、若いマウスの血液から、“長寿遺伝子”こと「サーチュイン遺伝子」を活性化するために必要な「NAD」を合成する酵素「eNAMPT」を取り出し、高齢のマウスに注射することで若返らせることに成功したと発表した。
この研究で、血液中のeNAPMTの量を比較したところ、6か月齢から18か月齢にかけてのマウスでは、オスで3割、メスで7割も減っていることがわかり、eNAMPT量が多いほど、マウスが長く生存することもわかった。
さらに、遺伝子操作によってeNAMPTの量を保つようにしたマウスでは、睡眠の質、記憶力、網膜細胞の機能など、身体活動のレベルがほかのマウスより1年も若かったと報告されている。これは人間に換算すると50代が20代の若さを維持しているようなものだという。
それ以外にも、「血液」による若返り効果を実験した研究は多い。2014年、米ハーバード幹細胞研究所の研究チームは、加齢によって減少するたんぱく質「GDF11」に着目。若いマウスの血液からGDF11を採取し、高齢のマウスに投与したところ脳や筋肉の組織を若返らせる効果があると結論づけた。同年、米カリフォルニア大学の研究チームも、若いマウスの血液を高齢のマウスに輸血すると海馬が活性化し、記憶力もよみがえるとする研究結果を発表している。
こうした研究を踏まえ、アメリカでは「若い血」を用いたビジネスも登場。35才以上の参加者が8000ドル(約91万円)を支払い、16〜25才から採取した血液を週に1回、4週間にわたって輸血するというプログラムが行われた。「認知症予防になった」という報告があったものの証拠に乏しく、健康リスクの高さなどから批判の声が大きい。
血液だけではない。今年8月に「若いマウスから糞便の移植を行った高齢マウスの認知機能と免疫力が大幅に改善した」と、スウェーデンの研究所が報告した。便微生物移植は、潰瘍性大腸炎といった腸の病気の治療法として研究が進められてきた分野で、2013年にオランダで、クロストリジウム・ディフィシル感染症という下痢の症状が治癒したことで注目された。