食パンや菓子パン、豆腐、ポテトチップス、冷凍食品、牛丼など、身近な食品だけでなく、電気代やガソリン代など、他分野にわたって値上げが相次いでいる。新型コロナウイルスの感染拡大による影響が大きいのはもちろんだが、数年前から進行している、貿易における日本の「買い負け」も無視できない。俳人で著作家の日野百草氏が、現役商社マンに買い負けの現実と、それを理解しない日本国内の様子について聞いた。
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「日本の買い負けは深刻ですよ。いずれ国民生活そのものが立ち行かなくなるかもしれません」
歴史ある食品専門商社に長く勤めるA氏(40代)にお話を伺う。緊急事態宣言も明け、彼の会社も飲み会OKとなった。それまではコロナ対策で業務上必要な最低限度の打ち合わせ以外は私用でも禁止だったという。その堅実な社風と同様、彼もまた真面目で国を愛する商社マンだ。本稿、業界特有の専門用語はそのまま使えないので平易に置き換えている。
「大げさではありません。アメリカも中国も日本なんか相手にしないのが本音です。日本のバイヤーは買いたくても買えない、肉も魚も油も豆も、何もかも需要分を確保できなくなりつつあるんです」
買い負けは昨日今日に始まったわけではない。水産物などは10年前から日本は円安と中国14億人の需要によって買い負けてきた。それがコロナ禍を経て、いち早く経済を回した中国と出遅れた日本とでさらに顕著になった。
「水産物はもう価格競争から脱落しかけています。日本は元々食用魚介類の自給率は100%だった。いまも60%は維持できています。値は張りますが食卓から消えることはない。でも言い方は悪いですが、100円なんて馬鹿げた値段でクルクル回すような回転寿司チェーンは方針転換を迫られるでしょう」
彼は「馬鹿げた値段」と口悪く言ったが、理由はその水産物を買いつけるのにどれだけ大変か、本来そんな価値ではない、そんな値段でバラ撒くなという思いからだという。商社はどこも最高益を記録するなど物価高騰の恩恵を受けている。まして飲食チェーンがどう売ろうが、エンドユーザーがどれだけ安く求めようとそれぞれの勝手かもしれないが、この国はもうそんなことを言っている場合ではない、という思いからだ。実のところ、大手回転寿司は今年に入りコスパが悪くなってきている。値段も少しずつ上げているし、寿司以外のサイドメニューでも利益を出そうと努力している。彼の言う通り、それどころではなくなってきているのかもしれない。