総選挙の善戦で政権基盤が安定するかに見えた岸田政権だが、どっこいそうはいかない。自民党では選挙が終わるや否や来年夏の参院選をにらんで新たな権力闘争が始まった。
きっかけは小選挙区で敗北した甘利明・前幹事長の“失脚”と後任人事だ。キングメーカーの安倍晋三・元首相周辺からは選挙応援で功績があった高市早苗・政調会長の幹事長就任を求める声があがったが、岸田文雄首相は要求を振り切って旧竹下派会長代行で外相の茂木敏充氏を幹事長に起用した。
首相は選挙戦を通じて高市氏の脅威をひしひしと感じていた。それを象徴するのが兵庫県西宮市での応援演説。高市氏は「自民党の選挙公約は高市公約そのままだ」という批判があることに「その通りでございます」と自信満々に笑みを浮かべ、こう力説した。
「公約は私のパソコンで作りました。岸田総裁から『なにがなんでも5日以内に作ってくれ』(と言われて)3日間徹夜をした。自分の総裁選挙の公約をコピペした後、岸田総裁の総裁選の政策を、原本のデータがないから自分で打ち込んだ」
岸田首相や甘利氏が応援で目立たなかったのとは対照的に高市氏は引っ張りだこ。そのうえ、選挙公約づくりの“丸投げ”まで暴露されて面目を失った。来年夏には参院選を控えている。
「目立ちたがり屋の高市を幹事長にしたら岸田総理の存在感は食われてしまう」(岸田派ベテラン)
だからなんとしても、岸田首相は「高市幹事長」を阻止しなければならなかった。茂木氏の後任の外相選びでも岸田VS安倍は火花を散らした。
岸田首相が安倍氏の“天敵”で岸田派座長の林芳正・元文科相を外相に据えようとしたことだ。この人事に自民党タカ派から、「日中友好議連会長の林氏を外相にすれば、日本は親中路線に転換すると間違ったメッセージを送ることになる」という反対論があがり、首相は人事をいったん保留して外相不在のまま英国での国際会議に出発するという異例の事態となった。
林氏は60歳と政界では若いが、防衛相、経済財政担当相、農水相(2回)、文科相を歴任するなどすでに閣僚経験5回。今回の総選挙では参院議員から河村建夫・元官房長官を押しのけて衆院山口3区に鞍替えして圧勝し、「岸田派のプリンス」として総裁をうかがうポジションにつけた。
安倍氏とは地元・山口で親子2代にわたってライバル関係にあり、次の総選挙では同じ選挙区でぶつかる可能性が高い。