長寿に関する研究はさまざまあるが、「120才」が、ひとつの区切りとして語られていることが多い。これには理由がある。淡海医療センター病院長の古家大祐さんが解説する。
「鍵を握るのは腎臓です。腎臓は2つありますが、1つにつき、尿を作る組織である『ネフロン』が70万~80万個ある。ネフロンが元の数の1割を下回ってしまうと自分の腎臓では生きられなくなり、腎臓移植や透析が必要になります。30~40才を過ぎると、このネフロンが1時間に数個ずつ潰れていく。腎臓の老化はネフロンの数値で表せるのでほかの臓器より寿命が計算しやすく、一般的に腎臓の限界は120才といわれています」
つまり、腎臓の老化を遅らせるほど、健康に長生きできる可能性も高くなるということだ。
「まだSFの世界ですが、高性能な人工腎臓ができて、古くなったら取り替えられるような未来がきたら、120才よりもっと上の年齢まで基準が変更されるかもしれません」(古家さん)
その“SF”が、現実になるかもしれない。今年10月、米ニューヨーク大学ランゴーン医療センターの外科医らが、遺伝子操作されたブタの腎臓をヒトに移植することに成功したと発表した。免疫系による拒絶反応を起こさないまま、ブタからの移植に成功したのは世界初のことだ。
移植を受けたのは、臓器提供の意思を示していた腎機能障害のある脳死患者で、家族の了解を得て一時的な試みとして実践された。患者の血管につながれたブタの腎臓は体外で約3日間も維持され、問題なく尿を作り、腎臓の機能低下を示す血清クレアチニン値も正常になったという。
こうした動物からの内臓移植に限らず、骨や関節、血管、心臓の弁、内耳、ペースメーカーなど、臓器が不具合を起こしたときに代役となる人工物はすでに身近なものとなっている。