好評のなかで放送も中盤にさしかかっている連続ドラマ『ムショぼけ』(ABCテレビ・日曜23時55分~、テレビ神奈川・火曜23時~)。同作は、長い刑務所暮らしで、社会と隔離された生活を送った主人公の元ヤクザ・陣内宗介が、出所後に世の中の環境の変化やスピードの速さについていけずに「ムショぼけ」してしまう姿を描いたヒューマンコメディーだ。ついつい壁に向かって座って独り言を話す、静かで真っ暗な場所での睡眠に慣れたため物音ひとつで目が覚めてしまう……。
原作である同名小説『ムショぼけ』(小学館文庫)の著者で作家の沖田臥竜さん(45才)はこう語る。
「長い懲役から帰ってきた主人公の陣内が、社会に対して窮屈さとか、生きづらさを感じることがあったとしても、それがアカン、社会が間違っていると伝えたい物語ではないんです。陣内が苦しい、困っているという話ではない。陣内はたしかに苦労はします。それでも、前向きでまっすぐに奮闘する姿に、滑稽なところがあってコメディになったり、どうしても超えられない壁にぶち当たってドラマになったりする。支えてくれる家族がいて、ホームドラマにもなる。できれば、最後の最後までしっかり観てもらいたい物語です」
その沖田さんが、陣内の娘・ナツキ役で出演する鳴海唯(23才)と対談。鳴海は、この作品との出会いについてこう語りはじめた。
鳴海「実は、少し前までは不良ドラマやヤクザ映画を見るのが苦手でした。ケンカで怪我をしたり、けん銃で撃ち合ったり、バイオレンスなシーンがあると、思わず目を背けてしまっていたんです。
そんなときに、今年1月公開の藤井道人監督の『ヤクザと家族 The Family』を観る機会がありました。後で、『ムショぼけ』原作者の沖田さんが監修をされた映画だと知るのですが、この作品を観て、ヤクザ映画のイメージがガラリと変わりました。ヤクザであっても、暴力的であるのとは別の、とても人間的な側面が描かれていた。ストレートに感情表現をする分、家族愛や友情、喜びや悲しみ、怒りが心に響くんです。
今年はこういう作品に絶対に出たい!と思っていたら、今回、『ムショぼけ』のオーディションの話をいただきました。本当にうれしかったですね」
沖田「暴力を暴力で描くことは、誰でもできると思うんです。たとえば、刑務所の中を犯罪で描くことは誰でもできますし、当たり前です。
でも、現実には四六時中、犯罪をやってるわけではないし、誰にだって淡々とした日常があります。冗談を言えば、恋愛もする。自分は、とにかく先入観を裏切りたかったんです。だから、この『ムショぼけ』という作品には、笑いがあって、涙があって、家族や仲間たちとの人間ドラマがあります。そのギャップを常に考えて、小説を書き上げました」