“抗老化”の研究が進んでいけば、“人生120年”時代が現実になるかもしれない。ただ、あくまでもそれは「可能性」であり、私たち自身の行動が変わらなければ、最新科学の力を駆使しても健康的に長く生きることは難しい。慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室特任講師の早野元詞さんはいう。
「老化はその人の生活環境や食べたもの、運動や生活リズムに大きく左右されます。昔は遺伝子によって決められていると信じられてきましたが、遺伝子がまったく同じはずの一卵性双生児でも片方が老けているケースがあることから、外的要因が大きいことがわかりました。また、意図的にDNAに損傷を与えると老化が加速することもわかっています」(早野さん)
DNAの損傷は、強い紫外線や放射線を受けるなどのほか、喫煙や環境中の化学物質、活性酸素、そして食物の中の発がん性物質などが原因だ。体に悪い物質が含まれていなかったとしても、食事は寿命に大きな影響を与える。淡海医療センター病院長の古家大祐さんはいう。
「まずはカロリー制限です。毎日食べる食事量を2〜3割減らすことです。お腹いっぱい食べすぎるとサーチュイン遺伝子の働きが鈍くなります」(古家さん)
さらに、空腹時間の長さも重要だ。
「ここ数年で言われ始めたことですが、空腹のときにサーチュイン遺伝子を活性化する酵素が増えます。理想は、12~15時間、何も食べない時間をつくること。食べていい時間帯は、満腹にならなければ何食でも食べて構いません。
この食事法は、毎日やらなくてもいい。動物実験では、4週おきに5日間、それを2年間継続したことで、高脂肪高カロリー食を摂っても肥満にならず、血管系機能などが改善したという報告がある」(古家さん)
肉などの動物性たんぱく質に含まれるメチオニンという成分を制限することで、さらに長寿になれる。
「メチオニンを制限すると、体内に硫化水素が増え、それが長寿に働きかけます」(早野さん)
カロリー制限よりも効果を発揮するという見方もある。
「体の老廃物を掃除してくれる『オートファジー』という機能は、メチオニンを制限することで高い効果を発揮できるようになります。食事内容は、肉より野菜中心にして、油が少ない和食がいいでしょう」(古家さん)