医薬品は効果がある以上、必ず副作用を伴う。患者に副作用のリスクを上回る利益(ベネフィット)がある場合に薬は使用され、適用される疾患や用法・用量、副作用などの情報は「医薬品添付文書」に明記されている。医師や薬剤師は添付文書の内容に従って患者への処方・調剤業務を行なう。
問題は、医薬品の発売後に新たに確認されて、「追加」される副作用だ。薬の発売後に患者に副作用が疑われる症例があった場合、医師や製薬会社は医薬品類の健康被害救済や承認審査、安全対策を担う厚生労働省所管のPMDA(独立行政法人医薬品医療機器総合機構)に報告する。
PMDAは医薬品との因果関係などを精査し、調査結果を厚労省に上げる。こうした手続きを経て、同省が製薬会社に添付文書の「使用上の注意」改訂を指示すると、「新たな副作用」が記載されるという流れだ。
10月12日、PMDAで確認された、薬の「新たな副作用」が報告されたが、その中には2013年に発売された関節リウマチの治療薬・ゼルヤンツ錠にこんな副作用が追加された。
〈心血管系事象/心筋梗塞等の心血管系事象があらわれることがある〉
〈悪性腫瘍〉
つまり、「心筋梗塞」と「がん」である。PMDAの審査専門員を務めた経験のある谷本哲也医師(ナビタスクリニック川崎)は、副作用で「がん」が発現することは「想定できる話だ」と語る。
「関節リウマチは自分自身の体に免疫反応が起こることにより、関節の内面を覆う滑膜に炎症が起こる自己免疫疾患です。ゼルヤンツは免疫細胞が働きすぎるのを調整する薬なので、がんのような免疫に関係する病気のリスクになることは十分考えられます」
70万人以上と言われる関節リウマチ患者の多くにとっては注目に値する情報だろう。因果関係は不明ながら、実際に厚労省にはゼルヤンツの副作用が疑われるリウマチ患者(50~70代の男女)の死亡例が集まっており、それらはPMDAウェブサイトで公表されている。
同じく10月12日、コロナウイルスの治療薬としての研究も進む抗寄生虫薬のストロメクトール錠(一般名イベルメクチン)にも「意識障害」の副作用が追加され、自動車運転などの操作に注意するよう患者に説明する旨も勧告されている。
谷本医師が「服用者が多いので、注意を払ってほしい」とするのが胃腸薬(プロトンポンプ阻害薬)のタケキャブ錠に追加された副作用「肝機能障害」だ(2020年10月)。
「タケキャブは副作用が比較的少なく、逆流性食道炎や胃潰瘍などの疾患でよく使われます。新たに追加された肝機能障害はどの薬でも起こりうる副作用ですが、『安全だから』とタケキャブを長期間、漫然と飲んでいる場合は注意したほうがいいでしょう」(谷本医師)
タケキャブは2019年にも「白血球減少、血小板減少」などが副作用として追加されている。
「ほかの薬でもまれに起こる副作用ですが、薬の成分によって免疫が刺激されて起こります。化学物質と本人の体質が合わずに起こる免疫異常がどの薬で出るかは予測できません。血液検査などで原因不明の症状が出たら薬の副作用を疑い、休薬するなどの対処が必要です」(同前)