東海銀行(現・三菱UFJ銀行)の調査部が1987年に公表した〈国土の均衡ある発展をはかるためには、首都を名古屋市に遷都するのが望ましい〉というレポートから、当時盛り上がった「名古屋遷都論」。しかし、全国的な世論は持ち上がらず、2000年代に入るとその議論は徐々に下火になった。
一度は雲散霧消した名古屋遷都論だが、そのスピリットは現在の名古屋人にも少なからず残っているようだ。
「実際に首都になることはないかもしれんが、名古屋が首都機能を担えば大きなメリットもあるんじゃよ」
そう語るのは、名古屋おもてなし武将隊の徳川家康氏だ。2009年に現世に甦り、名古屋のPR活動を続ける。
「移動2時間以内にどれくらいの人々が活動できるかを示す指標がある。2027年にリニアが開通した後、名古屋を起点とした2時間以内の活動人口は6400万人と見積もられておる。これは江戸(東京)の6200万人、大阪の4800万人よりも多いんじゃ。日本の真ん中に位置する名古屋が地理的に有利であるぞ、というわけじゃな」
名古屋市出身の気象予報士・森田正光氏も首肯する。
「名古屋にはまだ経済発展の余地がある。セントレア(中部国際空港)周辺は未開発地が多く、伊勢湾もあるので、リゾート地やテーマパークを誘致すれば観光は発展します。名古屋は道路も広いので、自動運転車が主流になる中、交通面でもプラスに働く。広い道路は災害時の安全確保にも繋がるため、首都機能分散に適している」
名古屋観光文化交流特命大使で、ローカルタレントの矢野きよ実氏はこう語る。
「実際に首都にならんでもね、名古屋の人は自分の街をよ~く知ってる。だから、『魅力を知ってる人だけ分かってくれればいい』と思ってますよ。でも、魅力を知ったら、どう考えても名古屋が中心になると思うんだけどね」
思いの丈は三者三様だが、“愛郷心”が強いことだけは共通しているようだ。
※週刊ポスト2021年11月19・26日号