自分の記録よりもチームの勝利──。口にするのは簡単だが、実行に移すのは容易ではない。その言葉を誰よりも実践しているのが、ヤクルトの優勝に貢献した39歳のベテラン・青木宣親だ。
セ・リーグのクライマックスシリーズ(以下、CS)のファイナルステージはヤクルトが巨人に連勝。アドバンテージの1勝を含め、日本シリーズに王手をかけた。CSでも3番・山田哲人、4番・村上宗隆、5番・サンタナの主軸につなぐ役割を、2番の青木が見事に果たしている。初戦、1回裏に先頭の塩見泰隆が二塁打で出塁すると、青木は5球目の外角のボールを強引に引っ張って、1塁側へのボテボテの投ゴロでランナーを進め、村上の先制犠牲フライ、サンタナの2ランに繋げた。青木は今季122試合に出場し、主に2番を打ちながら犠打ゼロ。2割5分8厘と打率は高くなかったが、徹底した進塁打で打線をつなげた。野球担当記者が語る。
「バントを決めれば打数に入らないので、打率は下がらない。でも、進塁打は記録上アウトが1つ加算されて打率は落ちてしまう。まして、青木は日本球界で4000打数以上を対象とした生涯打率で、元ロッテのリーと1位を争っています。昨季までは1位でしたが、今季終了時点でわずか2毛差の2位に落ちてしまった。歴代1位なら相当な名誉ですから、できれば進塁打ではなくバントで打率を保ちたい心理が働いてもおかしくない。それにもかかわらず、自らの記録を犠牲にしてチームに貢献する。そんなベテランの姿を見て、何も感じない選手はいないでしょう」(以下同)
今季、規定打席に達した選手で犠打ゼロはヤクルトの青木、村上、山田哲人、オスナ、阪神の大山悠輔、マルテ、サンズ、佐藤輝明、巨人の岡本和真、丸佳浩、広島の鈴木誠也、中日のビシエド、高橋周平、DeNAのソト、佐野恵太、宮崎敏郎の16名。青木以外はクリーンアップを打つ選手ばかりだ。
「バントの指示を出さなくても、青木はランナーを進めてくれるという高津監督の信頼の現れだと思います。ランナー2塁の場面で、誰もが進塁打を打てるわけじゃない。CSファイナル第2戦でも、1対0とリードした3回裏の無死2塁で、2ボール2ストライクからセンターへフライを打ち上げて、塩見が三塁へ進んだ。巨人の先発だった中4日の菅野智之に球数を投げさせての進塁打で価値が高い。この回は得点につながりませんでしたが、菅野は球数が100球を超えた6回にノックアウトされました。
投手としては、バントで1球でランナーを進められるよりも、何をやってくるかわからない状態で粘られた上で進塁打を許す方が消耗は大きいでしょう。青木の技術の高さがうかがえます」