潤んだ瞳と鼻にかかった甘い声で男たちを夢中にさせた女優・大原麗子さんが、11月13日に生誕75周年を迎える。大原さんが主人公・高倉健の元恋人を演じた映画『居酒屋兆治』(1983年 監督/降旗康男)の出演シーンを思い浮かべながら、舞台となった函館をめぐろう。
【あらすじ】
造船会社の方針に納得がいかず、退職した藤野英治(高倉健)は函館で妻の茂子(加藤登紀子)と『兆治』という居酒屋を経営していた。元恋人のさよ(大原麗子)は牧場主と結婚するも、英治を想い続けて苦しむ。ある晩、さよの不注意から牧場が火事に。2人は警察から放火を疑われる。
●金森赤レンガ倉庫
個性的な客が集う『兆治』があったのはこの倉庫群の一角。現在は商業施設として賑わう。
●函館朝市
英治夫妻が買い出しに訪れた函館朝市。さよは英治を見付けるが声を掛けられず。
●七財橋
雨の中、英治がさよを探した七財橋は当時と変わらぬまま。
元恋人の英治を想う余りに身を滅ぼすさよを演じる大原は、巧みな表情で悲哀を醸し出す。アパートでウイスキーをあおり、英治とのツーショット写真を見つめ、机に突っ伏しながら「あなたが悪いのよ……」と呟く。
思い余って、ダイヤルを回すも「電話、掛けたかったけど、掛けられなかったわ。茂子さんがいるんですもん」と受話器を持ちながら泣き崩れる。自宅アパート内での物憂げな顔が近隣のパチンコ店の賑やかな音楽によってさらに際立つシーンも。
(一部敬称略)
写真提供/大原政光
※週刊ポスト2021年11月19・26日号