口腔内細菌が虫歯や歯周病の原因であることは知られている。近年、その口腔内細菌が腸に移行して腸内細菌叢を形成し、さらに特定の口腔内細菌は大腸がん発症と進行にも関与しているのが大腸がん患者と健常者の唾液と便から採取した細菌の遺伝子配列分析で証明された。近い将来、唾液での口腔内細菌検査で、大腸がんのリスクがわかる時代が来るかもしれない。
母親のお腹にいる胎児の口の中には、ほとんど細菌はおらず、分娩や授乳で子供の口に口腔内細菌が棲みつく。以降も離乳食や大人との接触などにより、生後6か月目ごろには口腔内細菌が劇的に変化し、増加する。その細菌は驚くほど両親のものに酷似していることが知られている。
細菌は300~700種といわれ、その数はよく歯を磨く人で1000~2000億個、あまり歯を磨かない人では4000~6000億個と推計される。その口腔内細菌の一部が虫歯や歯周病の原因となるが、それ以外に全身の疾病にも、影響している可能性が出てきた。
鹿児島大学歯学部顎顔面疾患制御学分野の杉浦剛教授に詳しく訊いた。
「以前から、口腔内細菌が腸に移行して腸内細菌になるのでは、という考えはありました。20年程前より、細菌の遺伝子解析が進歩し、遺伝子配列の比較も可能となったので、口腔内細菌と腸内細菌の遺伝子配列を比較したところ、口腔と腸内に同じ遺伝子配列を持つ細菌を発見。その結果、世界で初めて口腔から大腸に細菌が供給されていることを証明できたのです」
細菌の遺伝子配列の比較は鹿児島大学歯学部と大阪大学微生物病研究所との共同研究で実施された。大腸がん患者と健常者から唾液と便を採取し、細菌の遺伝子の比較分析を試みた結果、大腸がん患者の唾液と便に共通して存在する特異的な口腔常在菌を4種発見できた。さらに、これらの口腔内細菌が腸に移行して大腸がん(直腸・結腸がん)の発生や進行に関わる可能性があることもわかったのだ。