アジア発グループとしては、異例の世界的大ブレークをはたしたBTS。ビルボードで1位を獲得し、国連では3年連続でスピーチをした。なぜ、ここまで大きな存在になったのだろうか──。北海道大学大学院准教授の金成玟さんは、「BTSには世代を超えた価値がある」と話す。
「ヒップホップ文化を受け継いだBTSは、世間の偏見に対抗しつつ自分のアイデンティティーを主張してきました。しかし彼らの大きな違いは、世界を敵と味方に分けるのではなく、むしろより多様なものに広げたところにあります。しかもアジア人男性であることは世界の音楽産業では絶対的に不利な条件。彼らは成長を重ねることで、その秩序に挑み続けた。そうした姿勢に共感した世界中の人たちが、年齢や国籍、宗教やジェンダーなどを超えていまのグローバルな現象を起こしているのではないでしょうか」(金さん)
事実、BTSが2020年6月に発した「私たちは人種差別に反対します。私たちは暴力を非難します」というメッセージには、90万件近いリツイートと210万件を超える「いいね」がついた。彼らが黒人差別に抗議する運動「Black Lives Matter」に100万ドルを寄付すると、アーミー(BTSのファン)も同額を集めて寄付した。
こうした社会的な動きも、ファンの門戸を広げるきっかけの1つだろう。韓国の音楽や文化に詳しいライターのDJ泡沫さんが説明する。
「国連やビルボードの“お墨付き”を得たことで、『この子たちってすごいんだ』と中高年が興味を持ちやすくなりました。加えて、『Dynamite』の振り付けがキャッチーだったため、TikTokを見た低年齢層にも支持が広がり、老若男女が一気にファンになった。韓国ではBTSは単なるアイドルではなく、オリンピックの金メダリストのような英雄です」
英雄たちは韓国の国家そのものを動かす立場に立つ。作家の康熙奉さんはこう話す。
「世界基準になることに執着する韓国人にとって、BTSは自尊心を高めてくれる存在です。日本人が大谷翔平選手の活躍に熱狂するのと同じような感覚で、韓国人はBTSを誇らしく思っている」
配信開始から4週間で世界1億4200万世帯が視聴し、Netflix史上最大のヒットとなっているドラマ『イカゲーム』の成功も、BTS抜きには語れないという。
「“BTSを生んだ韓国が作った”という触れ込みが、韓国の映画やドラマを視聴してもらう手助けになっています。韓国は小さな国なので、海外で需要がなければ国が成り立たない。BTSがこれほどの世界的ブレークを果たしたのは想定以上ですが、世界に打って出ようという韓国人の野心と執念が成功につながったことは間違いない」(康さん)