昨日まで真っ青に透き通っていた海が、今日突然、灰色に染まる。波までが白と黒のうねりになった。しかし翌日、その灰色はどこかに消え、また青い海が戻ってくる──。8月13〜15日にかけて、小笠原諸島の海底火山「福徳岡ノ場」が噴火した。それに伴い発生した軽石が、沖縄県や九州地方の沿岸に大量に漂着。海岸を埋め尽くし、異様な光景を出現させた。地球物理学者で武蔵野学院大学特任教授の島村英紀さんが解説する。
「今回の福徳岡ノ場の火山噴火は、戦後最大級の規模といっていいでしょう。噴火によって噴出した軽石は1億~5億立方メートルと推計されます。1億立方メートルでも東京ドームの容積の80個分にあたります」
立命館大学・環太平洋文明研究センター特任教授の高橋学さんも、驚きをもってこう話す。
「今回ほどの大量の軽石出現は、約2000年前の瀬戸内海沿岸などの遺跡から確認することはできますが、最近ではあまり例がありません」
この事態を受け、2人の専門家は、「大量の軽石の漂着は、日本を襲う巨大地震の前兆だと考えられます」と話している。
日本列島は、「太平洋プレート」「北米プレート」「フィリピン海プレート」「ユーラシアプレート」の4枚のプレートがぶつかり合う上に位置している。火山の噴火や地震は、これらのプレートの動きによって引き起こされる。
「福徳岡ノ場の噴火は、フィリピン海プレートの下に太平洋プレートが潜り込むことで、フィリピン海プレート内部のマグマが圧縮されて噴火したと考えられます。これは太平洋プレートの動きが、活発化していることを意味しています」(高橋さん)
つい最近、この太平洋プレートを起点にして、地殻変動に重大な異変が起きていたという。高橋さんが続ける。
「太平洋プレートは、北米プレートの下にも潜り込んでいます。人工衛星による地殻変動のデータを見ると、東日本大震災(2011年)以降、北米プレートは太平洋プレートに巻き込まれるような形で『西から東』に動いていました。
しかし、福徳岡ノ場が噴火した8月半ば頃から、その動きが変化しました。北米プレートやフィリピン海プレートなどが太平洋プレートに押されるような形で、『北東から南西』に、それまでとは異なった移動を始めたのです」
この異変は9月末頃まで続き、10月に入ると従来の動きに戻り始めたという。
「過去の例から言うと、地殻変動に何らかの異常な動きが起きてから、約2か月後に大きな地震が起きることが多い。
たとえば、東日本大震災、阪神・淡路大震災(1995年)、熊本地震(2016年)のときも、発生の2か月ほど前に似たような地殻変動の異変が見られました。
45~80日間という幅はありますが、この期間は経験上、『空白の60日』と呼ばれ、大地震の危険が迫っている時期といえます。つまり、今年の8月半ばから9月末にかけて異変があったわけですから、12月末までに巨大地震がくることは、充分考えられます」(高橋さん)