世界各地で急拡大しているeスポーツの熱狂の波が、日本のシニア層にも押し寄せている。eスポーツとは「エレクトロニック・スポーツ」の略で、コンピューターゲームやビデオゲームで対戦する競技を指す。欧米、韓国、中国で広まり、海外では数億円の賞金を稼ぐプロ選手も存在する。2022年に中国で開催されるアジア競技大会では正式競技に採用された。
日本では若者中心に競技者層が広がっているが、高齢者の健康維持や地域活性化にeスポーツを活用する動きが各地で増え、真剣に取り組むシニアが増加中だ。今年9月には、日本初のシニアeスポーツプロチーム「マタギスナイパーズ」が秋田県で発足した。平均年齢68歳。彼らが練習する秋田市内のトレーニングセンターを訪ねた。
「皆さんプロは勝ちを目指さないといけません!」
20代の監督が檄を飛ばすと、「オーッ!」と元気な声が上がる。チームはIT企業エスツー(秋田市)が運営し、65~73歳の選手12人とジュニア枠(64歳以下)2人の計14人で構成する。今年6月から募集し、ほぼ全員が初心者だが、シューティングゲーム「フォートナイト」などで公式大会出場を目指す。
「eスポーツ参入を決めた頃、スウェーデンのシニアプロチーム『シルバースナイパーズ』の存在を知り、高齢化率日本一の秋田県から日本初のシニアプロチームを生み出すことに意味があると考えたのが発端です。動画配信や広告で収入が得られるチームを作り、年金に加え、お小遣い10万円を稼げるようになるのが目標です」(エスツーの緒方無双総務部長)
チーム練習で週1回、全体練習で月1回集まり、毎回3時間猛特訓する。さらに各自で週に数時間、自主練習を行なう。エバちゃん(67)は「昨年末に介護の仕事を引退後、次の人生の目標を探していた時にeスポーツと出合い、毎日が楽しい」と話す。メンバーからは「武器を覚え、戦略を考えることで脳が活性化する」と効果に驚く声も聞かれた。
撮影/太田真三
※週刊ポスト2021年12月3日号