日本語の元となる言語を最初に話したのは、約9000年前に中国東北地方の西遼河(せいりょうが)流域に住んでいたキビ・アワ栽培の農耕民だった──ドイツなどの国際研究チームが英科学誌『ネイチャー』に発表した研究論文の内容だ。歴史作家の島崎晋氏は、「事実であれば、何とも壮大」と指摘する。一体どういうことか。
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小室眞子さん、圭さん夫妻の出国が決まり、騒動にひと段落がついたかに思えた11月13日、まったく異なるジャンルのニュースがネット上をざわつかせた。〈日本語の原郷は「中国東北部の農耕民」 国際研究チームが発表〉──同日午後3時に配信された『毎日新聞』電子版の見出しである。また、これより前に配信された韓国紙『ハンギョレ』日本語版の見出しには次のようにあった。〈韓国語と日本語の起源、遊牧民ではなく遼河の農夫たちの言語〉。
どちらの記事も、国際的な権威をもつ学術誌『ネイチャー』に同月10日に掲載された論文「トランスユーラシア語族のルーツは農業にあった」をネタ元とするが、この論文タイトルを見ても、多くの日本人はチンプンカンプンに違いない。
「トランスユーラシア語族」という専門用語からして、馴染みがない人がほとんどだろう。昭和生まれの人には、「ウラル・アルタイ語族」の「アルタイ語族」の言い換えと説明すればよいかもしれない。言語学上の専門用語である。
言語学のなかには、特定言語の起源を探求する比較言語という分野がある。ドイツを中心とする近代ヨーロッパで盛んになったが、ヨーロッパ発の学問である性格上、インド・ヨーロッパ語族(インドからヨーロッパの大半の地域に分布する語族)の調査・研究は著しく進展しながら、それ以外はおざなりの状態が続いた。東アジアで言うなら、日本や中国、韓国など出身の研究者層が質と量の両面である程度厚くなるまで待たねばならなかった。
その間に、インド・ヨーロッパ語族以外の枠組みの見直しも進んだ。ウラル語とアルタイ語を同系とする見方はおかしく、アルタイ語という命名もヨーロッパ中心の価値観が露骨だというので、「横切って」を意味するラテン語を借りて「トランスユーラシア語族」という名称が新たに創作された。