NHK朝ドラ『カムカムエヴリバディ』に、テレ東深夜『じゃない方の彼女』。平成に青春期を過ごしたドラマオタクのエッセイスト・小林久乃氏は、話題のドラマ2作品で“祖母役”を演じるタレントで女優のYOUの演技に驚いたという。小林氏が綴る。
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「あのYOUが本気を出したのか……?」とドラマ録画を見ながら息を呑む。YOUとは、ハスキーボイスで知られるタレントのYOUさんである。『セブンルール』(関西テレビ・フジテレビ系)では軽妙なトークで司会を、『ねほりんぱほりん』(NHK Eテレ)ではインタビュアー「ぱほりん」の声優を務めている。
平成に青春期を過ごした女性たちは、皆一様に彼女の自由奔放そうに見える生き方に憧れた。美容院が面倒だとロングヘアのヘアカットは自分でする、冬でもノースリーブ、年下夫との再婚と離婚。周囲に隠すことのない恋愛。女性ファッション誌『InRed』『GLOW』(いずれも宝島社)は彼女のために作られたような大人の雑誌だったように思う。歌手、女優、モデル。どのカテゴライズにもぴったりとハマらないような存在は、平成期に異例であった。
そんなYOUさんが今クールのドラマでは、なんとお婆ちゃん役で2作品に出演している。57歳という年齢を考慮すれば、たしかに自然な配役だろう。「私たちが好きだったYOUがおばあちゃん……?」と思うと腑に落ちない部分もあるのだが、しかし、作品を見れば誰もが膝を打つことは間違いない。そこには専業のベテラン俳優たちに引けを取らない、唯一無二の存在感があるのだ。
息子を溺愛する姑がハマる『カムカムエヴリバディ』
登場からSNSがざわついたのは、朝ドラ『カムカムエヴリバディ』(NHK総合)の雉真美都里役。視聴者の多くを占めるのはおそらく主婦の皆様。私と同じく、平成に青春期を過ごした同士である。家事育児に追われているうちに、YOUさんの実年齢を忘れていたかもしれない。時代のミューズのお婆ちゃん役を目の当たりにするのは衝撃だったはず。
『カムカムエヴリバディ』は三世代のヒロインが控えており、現在は大正~昭和の第1期を放送中。岡山市内の商店街の和菓子屋「たちばな」の長女として育った安子(上白石萌音)は、繊維業を営む名家の跡取り息子・雉真稔(松村北斗)と、身分違いの恋を実らせて結婚。折しも太平洋戦争が勃発していたため、ほんの1か月の結婚生活を経て、稔は出征することになるのだが、この嫁ぎ先である雉真家の姑こそ、YOUさん演じる美都里だ。