新型コロナの感染者数は大幅に減少し、全国各地でイベントや飲食、移動の制限が緩和されているが、それでもなお、様々なところで苦慮と試行錯誤が繰り返されている。2年ぶりに博多で開催されている大相撲・九州場所では、地元の相撲ファンから恒例のサービスがなくなっていることについて、残念がる声も聞こえてくる。
もともと地方開催場所は、単に本場所を大阪や名古屋、福岡で開催するだけでなく、地方在住のファンが普段はなかなか見られない力士たちの姿を間近に見て、触れあう機会が設けられていることで人気を博してきた。ただ、そうしたサービスは、政府や自治体のガイドラインに従って新型コロナウイルス感染拡大予防対策を徹底させることと、どうしても両立しづらい。協会関係者が語る。
「例年なら2週間前の番付発表前日に現地入りして、地方の後援者の皆さんに宿舎での稽古を見学してもらったり、稽古後にちゃんこを一緒に食べてもらったりして、親睦を深めるのが地方場所の醍醐味ですが、今回は接触を最低限にするために初日の2日前に現地に入った部屋もあった。力士や親方は外出禁止で、後援会メンバーであっても稽古場の見学はNGとなり、宿舎の敷地内にも入ることができないので、ファンサービスという面では関係者としても心苦しいところがあるでしょう」
場所前の激励会、場所後の打ち上げパーティもなく、九州場所の風物詩となっていたタニマチに連れられて中洲に繰り出す力士の姿もない。「地元の親兄弟との接触を禁止している部屋もあるほど」(同前)だという。本場所が行なわれている福岡国際センターも、例年は力士たちが正面玄関から入るため、一目見ようとする来場者が現場に集まっていたが、今回は関係者の駐車場側にある通用門にタクシーや車を横付けして館内に入っていく。
糖尿病などの既往症を持つ力士は少なくなく、角界では新型コロナのクラスターや重症化による死者も出ているだけに、対策が念入りになるのは当然だろう。地方場所への移動で、感染拡大の原因となるわけにもいかない。それは多くの地元ファンが理解しているところだが、来場者からはこんな感想も。
「力士が感染しては大変だから、対策をきちんするのは当然だと思います。ただ、正面入り口の木戸番(モギリ)が、親方衆じゃなかったのはちょっと残念でした。いつもなら、錣山親方(元関脇・寺尾)や立浪親方(元小結・旭豊)といった元人気力士に切符を渡して入場するのが楽しみのひとつでしたが、今場所はアルバイトらしき人がチケット係をしていました。館内警備も親方衆は少なく、アルバイトが大半。感染がまだ収束に向かう途中だから、仕方ないことだとは思いますが……」(会場を訪れた50代男性)