今年で50周年を迎える日活ロマンポルノは多くのクリエイターたちに影響を与えた。映画を愛してやまない行定勲(映画監督)、ライムスター・宇多丸(ラッパー)、城定秀夫(映画監督)、瀬々敬久(映画監督)の各氏が、それぞれ「この1作」を挙げた。
『悶絶!!どんでん返し』
【1977年公開 監督/神代辰巳 出演/谷ナオミ、鶴岡修、遠藤征慈、結城マミほか】
ある日、東大卒のエリートサラリーマン・北山はホステス・あけみの部屋へ。しかし、そこにいた情夫のヤクザ・川崎に犯されてしまう。それを境に北山は、徐々に女装に目覚め、男女3人のいびつな三角関係が展開していく……。
「壮絶なラストシーンはロマンポルノ史の中でも最も秀逸な場面」と語るのが行定勲氏(映画監督)だ。
「10分に一度のセックス描写、実制作費750万円という限られた中から性愛をテーマに突出した映画群を生み出したにっかつロマンポルノの中でも、神代辰巳監督の作品は一際、輝いて見えた。『赫い髪の女』『赤線玉の井 ぬけられます』『四畳半襖の裏張り』などの傑作は言わずもがなだが、『悶絶!!どんでん返し』が最もエキセントリックな映画として私の記憶に残っている。
サラリーマンの男がホステスの家に上がり込み関係を結んでいるところにヤクザ風情の同居人の男が帰ってくる。驚愕するサラリーマンはそのヤクザの男に無理矢理犯される。その時、サラリーマンの男は女性の悦びを知り、ヤクザの男を女と奪い合うような歪な三角関係が生まれていく。そこには性別を超越した感情が浮き彫りにされ、滑稽さと悲哀を込めて描かれる。すっかり女性化した男が棄てられる壮絶なラストシーンはロマンポルノ史の中でも最も秀逸な場面だったと私は思う」
『ピンクカット 太く愛して深く愛して』
【1983年公開 監督/森田芳光 出演/寺島まゆみ、山口千枝、井上麻衣、山地美貴ほか】
女性従業員がミニスカートで働く大繁盛の床屋を舞台に、男性客の要望がエスカレートし、徐々に風俗店と化していく様を描いた青春エロティック・コメディ。森田芳光監督による軽妙なタッチが光る。
ライムスター・宇多丸(ラッパー、ラジオパーソナリティ)はこの作品を「まさしく森田芳光にしか作り得ないロマンポルノの快作」と位置付ける。
「1982年の『噂のストリッパー』と翌1983年の『ピンクカット 太く愛して深く愛して』は、自主制作映画出身の森田芳光が、プロとして必要な撮影技術を急速に身につけた、という点でも非常に重要な2作で、仮にもしこのプロセスを経ていなければ、続く商業映画第5作目『家族ゲーム』があそこまでの歴史的傑作となることも、恐らくなかったのではないでしょうか。
特に『ピンクカット』は、初のセット撮影、ほぼ全編移動ショットなど、スタジオならではのテクニックを存分に駆使出来る喜び、ポップな人工美とオフビートな遊び心に満ちた、まさしく『森田芳光にしか作り得ないロマンポルノ』の快作。いささか強引な音楽劇としても、楽しい!」