広大な宇宙で高度な文明同士が遭遇するのは、サハラ砂漠に解き放たれた2匹のアリが正面衝突する確率より低い──宇宙人の地球来訪を否定する根拠のひとつに「距離」の問題がある。
アインシュタインの相対性理論では、「質量のある物体は光の速さ(秒速30万km)を超えられない」とされ、たとえ同時期に2つ以上の文明が存在しても、「途方もない距離を克服し互いの星を訪れるのは不可能」とされてきた。
だが、この難題を現代科学の枠組みの中で解決する試みが、世界各国で行なわれている。
2013年、NASAの先端推進技術研究チームは、宇宙空間を「ワープ航法」で移動するコンセプトを発表。相対性理論の「ワームホール(時空の抜け道)」を利用し空間を歪める航法で、到達に数千~数万年かかる2地点をわずか数日で移動可能という。まるで映画『スタートレック』の世界だが、理論的には物理学の法則に反していないそうだ。
かつては宇宙人の地球来訪に否定的見解を示していた英の理論物理学者、スティーブン・ホーキング氏(2018年死去)も、星間の超高速移動に高い関心を寄せていた。
ホーキング氏は2016年、ロシア人投資家と組み「ブレークスルー・スターショット」と命名したプロジェクトに着手。レーザー推進技術を用い、光速の20%の速度で飛ぶ小型宇宙船を開発、地球から約4.2光年離れた恒星「プロキシマ・ケンタウリ」に到達させる壮大な試みだ。現代の宇宙船で7000年かかる距離に、わずか20年で到達するという。火星なら片道数時間の速さだ。
もっとも、プロジェクトには総額100億ドルもの費用が必要とされるほか、技術的な課題も多い。
だが、驚異的な科学の発達で、この先、宇宙空間がどんどん狭くなっていくのは間違いなさそうだ。
※週刊ポスト2021年12月3日号