熊本県中央部に位置する美里町は、町域の約8割が山地・森林の山里だ。多くの山村がそうであるように、同町も人口減と高齢化が進んでいる。人口は約9500人。65歳以上の高齢者の割合が、47%と県内有数の高さだ(2020年10月調べ)。そんな背景の中で、同町が昨年10月から取り組んでいるのが、eスポーツによる高齢者の健康づくり事業だ。
スタートから約1年、訪ねたのは美里町水上地区の小さな集会所。ここで週1回、eスポーツの健康サロンが開かれる。町から委託されサポートする、eスポーツ事業社ハッピーブレインのスタッフが設営した機材の前に参加者はごく自然に座り、セガより発売中のパズルゲーム「ぷよぷよeスポーツ」を始めた。
「ぷよぷよeスポーツ」は2019年に国民体育大会で初のeスポーツ大会で種目のひとつに採用され、2021年も「全国都道府県対抗eスポーツ選手権」も行われた、メジャーなeスポーツ種目だ。ゲームは「ぷよぷよ」以外を使うこともあるが、「『ぷよぷよ』じゃないと?」の声が上がるくらい人気が高い。
ゲームは2人1組の対戦形式で、全員が手慣れた様子で操作し、次々にゲームをプレイする。参加者の平均年齢は80.7歳、最高齢は92歳。皆、動きも素早く、勝つ気満々だ。ゲームに対する抵抗はなかったのだろうか。
eスポーツ開始の告知は昨年9月だった。「それまでeスポーツなんて知らなかった」と参加者の髙田薫(78)さん。それでも参加したのは、集会所が自宅から歩いて行ける距離にあり、何かにつけて住民が集まる交流の場だったからだ。体操やパッチワークなどの講座が開催されていた。取り組む講座が一つ増えたくらいの感覚だったのかもしれない。
しかし、最初からうまくいったわけではない。ハッピーブレインの中尾誠さんはこう語る。
「当初はコントローラーの操作に馴染めない方が多く、障がい者用に開発された大きなボタンの操作から始めました。それでも挫折者が出なかったのは、参加者の負けん気と、仲間と一緒、一人ではないという心強さだったと思います」
コントローラーを使いこなしてゲームを楽しめるようになると、腕前はメキメキ上達していった。
変化はゲームの腕前だけではなかった。参加者はスタート時から月1回、認知能力と運動能力を測定してきた。全員の注意力が向上し、認知機能は改善されているという。
「ゲームには脳の血流を促進する効果があり、さらに、一人でするよりも対戦形式のほうが効果的です」(同前)