公開中の人気映画シリーズの最新作『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』は、能面や枯山水など伝統的な日本の品々や趣向が登場することでも話題だ。とくに印象的なのが畳の間でジェームズ・ボンドが敵と正座で対峙するクライマックスシーン。この重要なシーンに使われた112枚の畳は、東京・西日暮里にある1933年創業の森田畳店が輸出したものだ。3代目店主の森田隆志さん(57才)はこう振り返る。
「2019 年6月に注文メールがロンドンから届きました。メールにあった『007』は業者の整理番号かなと思っていましたが、まさかあの映画の『007』とは夢にも思いませんでした。作品の美術担当、ベロニカ・ムルリーさんの『い草の香りがする“本物”が欲しい』という熱意に押され、作業もより熱を込めて仕上げました」(森田さん・以下同)
注文が入った森田畳店のホームページは無駄なものがない簡素なつくりになっている。
「2000年頃、友人が『これからはインターネットの時代』と、うちのホームページを勝手に作ってくれたんです。自分でもコツコツ直すうちに独学でホームページを作れるようになったのが、いま思えば発端でしたね」
藁やい草を含む畳の輸出手続きは実は複雑。そこで国や地域ごとの輸出手続きについてや、芯材も畳表も選べる点を整理し、英語やフランス語版のページを作った。すると次第にサウジアラビアの大富豪や、パリコレからも注文が舞い込むようになったという。
「いまでは国内からの注文と海外からの注文の割合が同じくらいになってきていますね。いま作業しているのもドイツに送る畳なんですよ。ベロニカさんがインタビューで『森田畳店のホームページは誠実さに溢れていた』と答えていたのがうれしかったですね」
下町の実直な畳店が世界と繋がり、日本の文化に欠かせない畳を広めているのだ。
撮影/浅野剛
※女性セブン2021年12月9日号