情報化社会の浸透により、おそらく過去になかったスピードで世の中は変化している。コラムニスト・石原壮一郎氏が考察した。
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「フェミニズム」には、どれだけ感謝しても感謝し過ぎということはありません。その考え方や視点は、間違いなく世の中をいい方向に向かわせてくれています。「フェミニズム」をベースに、勇気を出して声を上げてくれた方々や行動を起こしてくれた方々のおかげで、今の日本はたとえば昭和の頃と比べて大きな変貌を遂げました。
男女を問わず私たちひとりひとりも、たくさん気づきを得て、意識や日々の言動が変わってきています。セクハラやマタハラや容姿をネタにすることに対しては、はっきり怒っていいという認識が広まったし、「女性らしさ」や「母親らしさ」を押し付けたりその呪縛に苦しんだりする人も、昭和と比較すればはるかに減りました。
育児や家事の分担、賃金格差や雇用差別、議員や管理職における男女比率の不均衡などなど、まだまだ課題は山積みです。しかし、多くの人は「このままではいけない」「男女差別はあってはならない」「平等な世の中をめざすべきだ」という認識は持っています。それもこれも「フェミニズム」のおかげと言っていいでしょう。
そんな素晴らしい「フェミニズム」が、このところ深刻な「風評被害」を受けています。「フェミニズム」も、その考え方に賛同する「フェミニスト」も、すっかりイメージが悪い言葉になってしまいました。なんか怖い、面倒くさそう、近寄らないほうがいい……と感じている人は、どうやら少なくありません。「電通総研」が男性3000人を対象に行なった調査では、18~30歳の男性の4割以上が「フェミニストが嫌い」と答えています。
なんて失礼で理不尽な話でしょうか。たしかにここ最近、「フェミニズム」や「フェミニスト」の看板を掲げる一部の人の言動が、大きな批判を受けたり失望や落胆を招いたりしました。ざっと振り返ってみましょう。
9月にはVtuberの動画を使った千葉県警の交通ルール啓発動画に対して、「全国フェミニスト議員連盟」が「女性キャラクターが性的で不適切だ」と抗議。結果的に動画は削除されましたが、抗議をした側への批判や反発の声が高まっています。11月初めには、有名女性作家と有名フェミニストの方々がTwitter上で大ゲンカを繰り広げました。まだ決着はついていないものの、やじ馬のあいだでは有名女性作家を支持する声が優勢です。
登場人物が一部重なりますが、11月中旬には有名フェミニストの方が、日本各地の温泉地をモチーフにした女性キャラクターたちを「性蔑視で性搾取」と批判しました。5年前から続いているPR方法であり、実際に温泉地の集客に貢献していることもあって、批判に対する批判やキャラクターを擁護する声が巻き起こっています。
どの問題も、お互いに言い分や事情はあるでしょう。誰かを責めたいわけではありません。しかし、信念に基づいて良かれと思って行動を起こしたのに、かけ声に合わせて「そうだ、そうだ!」とコブシを振り上げている人たちだって悪気はないのに、そんな光景が「フェミニズム」のイメージダウンにつながっているとしたら、極めて残念な話です。
なぜ「風評被害」を受けてしまうのか、「フェミニズム」や「フェミニスト」が誤解されてしまうのか、たいへん僭越ながら愚考してみました。いや、私ごときが「こうしろ、ああしろ」と言うつもりはありません。あくまで「こういう見え方につながりかねない」という話です。どうかお平らに。