新型コロナウイルスの感染拡大によりエンタテインメント関連は世界中で大きな影響をうけ、今も元通りとは言えない状況にある。なかでも、密閉された空間に大勢の人が集まるからと、映画館は長らく休業に追い込まれた。通常営業が戻ってきて、新作映画も公開されるようになったが、それは日本映画もしくはハリウッド大作映画に偏りがちで、その他の国の作品情報を知るのは難しい。ライターの服部直美氏が、「香港映画祭2021」(11月27日~12月30日、大阪シネ・ヌーヴォなど)キュレーターのリム・カーワイ氏に、なぜ、現在の香港映画に注目するのかについて聞いた。
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日本初公開の作品ばかりを集めた「香港映画祭2021」が始まった(11月27日~12月30日)。上映される7本を選んだ中華系マレーシア人の映画監督リム・カーワイ氏は、2014年から2年間香港に暮らし、自らも雨傘運動をレポートした経験を持つ。6月にも「2021香港インディペンデント映画祭」を主催しているリム氏は、日本での上映機会がなかった、香港の新進監督たちによる未公開作を紹介しようという試みを「一人でも多くの人に観てもらいたいから」だと言う。
「映画を作って観てもらえないのは監督としては一番つらいことです。だから『時代革命(REVOLUTION OF OUR TIMES)』が日本で上映されたことは、監督にとっても香港の人たちにとっても、きっと励みになったと思います」
『時代革命』とは、2021年7月のカンヌ映画祭と11月の東京フィルメックスの二度しか世界で上映されていない、今後、いつ観られるか分からないと話題になっている2019年の香港民主化運動を追ったドキュメンタリー映画だ。香港映画祭では、同じキウィ・チョウ監督による香港で大ヒットしたラブストーリー『夢の向こうに』が上映される。
「キウィ・チョウ監督は今も香港にいます。そして『夢の向こうに』を制作し、2020年の香港映画で一番の大ヒット作品となりました。ヒットメーカーとして大手からもたくさんオファーがきたそうです。でも、民主化運動を追った『時代革命』を撮ったら、たくさん来ていたオファーが全部消えたと聞きました」(リム氏)
1997年に主権がイギリスから中華人民共和国になった香港は、2047年まで一国二制度が続く約束だった。だが実際には約束は無効とされ、2019年には逃亡犯条例改正案をめぐって反政府デモが頻発。その後、2020年に香港に対して新しい国家安全保障法が導入され、言論や表現への締め付けが厳しくなった。
たとえば、民主化運動のニュースなどでよく目にした「光復香港 時代革命(香港を取り戻せ、時代を革命せよ)」。かつての香港は、この言葉を書いた旗を持ち叫ぶだけで逮捕されることは決してなかった。なぜなら香港には言論の自由があり、政治批判、独立について語ったとしても、それは自由の範囲内にあった。しかし今では、同じように行動し続けた多くの香港人が逮捕されたため、次第に口を塞ぎ、何も行動しないという選択をする人が増えた。
しかしキウィ・チョウ監督は、自身のドキュメンタリー映画について「何があっても伝えたいと思っている、覚悟している」とメディアのインタビューで答えていた。細身で柔和な印象を与えるルックスの一方で、映画人として、香港人としての気概が、その強い言葉から痛いほどに伝わってきた。
「僕はキウィ・チョウ監督とは面識はないけれど、彼の作品を観て、とても正義感が強く献身的、情熱的な人だと思いました。中国政府の社会管理が強まった2025年の香港の未来像を予測し描いた、チョウ監督をはじめ5人の若手監督による短編映画『十年』(2015年)のときは、中国国営メディアから酷評されても、まだ多くの香港人の声で上映も可能でしたが今は難しい。『十年』に参加した5人の監督のなかには、すでにカナダへ移住した人もいます」(リム氏)