「失敗は成功の母」と昔から言うが、実際のところ巷にあふれているのは成功者のストーリーである。だからこそ、「失敗事例」を集めたこの本が人気なのだろう。株式会社学びデザイン代表取締役の荒木博行氏は、『世界「失敗」製品図鑑 「攻めた失敗」20例でわかる成功への近道』(日経BP)で、アマゾン、アップル、ネットフリックス、ソニー、トヨタなど、有名企業の20の失敗事例を徹底解説した。荒木氏の深く前向きな分析は、失敗から学ぶ大切さとともに、失敗する勇気や、失敗をポジティブに受け止める環境・文化の大切さを教えてくれる。失敗を成功につなげるために必要なこととは──荒木氏に話を伺った。
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GU、カローラ……あのヒット商品の前にあった失敗
──アマゾンの「ファイアフォン」、アップルの「ニュートン」、コカ・コーラの「ニュー・コーク」、ナイキのゴルフ用具事業……、聞き覚えのある製品やサービスの失敗の顛末は、学びがあると同時に、ストーリーとして興味深いものばかりでした。「失敗」に注目されたのはなぜでしょう。
荒木:我々は成功者の語るストーリーをよく聞きます。それはそれで非常に示唆に富む話ではあるのですが、成功者が語ると、何でも正当化されてしまう側面はあるんです。朝ごはんは何を食べているとか、本当に成功に関係あるの? と思うような話を含めて、成功者が語ることで、意味を持ってしまったりする。だから僕は、失敗事例にこそ、学ぶべきヒントがあるんじゃないかと感じていました。
ただ、失敗事例って世の中にあまり出ていないんです。なぜかといえば答えはシンプルで、情報が少ないから。誰しも己の失敗を語りたくないじゃないですか。だからこそ、こういう本を通じて、失敗を前向きな学びの題材にしてもらえたら、と考えました。
──「あのユニクロが野菜業界に参入!」と、ビジネス界に大きな衝撃を与えるも、1年半で撤退したファーストリテイリングの野菜事業・スキップ。しかしこの失敗が、現在のGU(ジーユー)の成功につながった。失敗なくして成功なし、を痛感します。
荒木:必ずしもそういう事例ばかりではないんですが、その後のビジネスにつながった失敗事例を中心に選んでいます。
ただ、失敗の意味合いやインパクトは、業界や産業によって違います。たとえば医療業界では失敗は避けるべきことですが、スタートアップ企業が失敗しても、それほどではないですよね。だから「どんどん失敗しようぜ」とは一概には言えません。ただ一つ言えるのは、変化の激しい社会において、1年間で12個プロダクトを出せる会社と、1個しか出せない会社があったとしたら、1個しか出せない会社は相当リスクが高いということ。対して12個出せる会社は、顧客から手痛いフィードバックを受けながら、徐々に顧客のムービングターゲット(動く標的)を捉えることができるわけです。